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ライブを終え、機材をひととおり部室に運び終えた頃、花火を知らせる校内放送が入った。
「天気怪しいけど、これ本当に上がるの?」
悠希に言われて、俺も部室の窓から顔を出す。空はどんよりと、厚い雲に覆われていた。
「ああ、今にも降りそうだな」
「上がるって言うんだから、見に行こうよ!」
孝輔に促され、外へ出る。校庭の芝生の上に寝そべり、花火が上がるのを待った。
すると、孝輔が再び耳打ちをする。
「行ってきなよ、冬ちゃん」
「行くって……どこに?」
「決まってるじゃん――有坂さんのところ。冬ちゃん、分かりやすいんだもん。有坂さんと話している時、いつも嬉しそうだったし。彼女、かわいいよね。こうやって、もたもたしている間に他の男にとられちゃうかもよ」
返す言葉がなかった。
孝輔と俺の会話を聞いた忍と悠希も、
「行って来い」
「今年が最後のチャンスだよ」
などと言って来たので、俺は有坂を探すことにした。
それからまもなく花火が始まり、周囲はすっかり盛り上がっていた。学生と教師合わせて千人近くいる中から探すのは至難の業だ。加えて、傘をさすほどではないが、小雨も降ってきた。
(あっ、いた……)
やっとのことで見つけた俺は、意を決して有坂の方へ近づいた。
だが……。
「花火、きれいだね」
そう話す有坂の隣には彼氏と思われる奴の姿があった。仲良く手を握り、会話をする二人の様子に俺は愕然とした。
(マジかよ……)
俺がそそくさと校舎の方に戻ろうとすると、
「あっ、冬弥くんじゃない! ライブお疲れ様」
よりによって、有坂に声をかけられた。
「ありがとう……」
(ああ……穴があったら、入りたい)
そう思った矢先、小降りだった雨が本格的に振り出してきた。花火も終盤だったが、事務局がこれ以上は無理と判断したのか、終了の合図を知らせる放送が入る。
「風邪ひくといけねーし、中入った方がいいんじゃない?」
雨のせいで、というより――雨に助けられたと言った方が良いのか……俺は教室まで無心で走った。教室に戻ると、俺の他にも何人かクラスメイトが戻っていた。俺が席に戻り、項垂れていると、
「冬ちゃん!」
廊下から聞こえる孝輔の声。
だが、それに答える気にはなれなかった。
しばらくして、俺が廊下に目をやった時には、孝輔の姿はなかった。
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