突然のお願い

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突然のお願い

「ねぇねぇ、明日ちょっと帰ってこられる? お母さんね、面接行くから履歴書書かないといけないのよ」  突然母から電話がかかってきたのは土曜日の午後9時。  電話自体はいつも突然なのでそう驚くことではない。 「履歴書? 就活でもするの?」 「スーパー山善の旦那さんが亡くなってね。お店畳むんだって。それでお母さん仕事がなくなっちゃったのよ」  お店がなくなったんじゃしょうがない。 しかし、時期が悪い。このコロナ不況の真っ只中で新卒の内定もままならないと言うときに、お母さんみたいな人が仕事を見つけられるだろうか。  かく言う私も就活戦線の真っ只中にいた。 月曜日にはエントリーシート提出の締め切りも抱えている。 「ちょこっと助けて欲しいんだけど、明日忙しい?」  履歴書など書いたこともない母は不安そうだ。エントリーシートなら帰ってから書けば間に合うだろう。 「いいよ。それじゃ明日、お昼過ぎに帰るから」 私は母にそう約束して電話を切った。
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