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「本当にありえない。困ってる人を見て笑うなんて、最低な人ですね。」
心底軽蔑している顔をして、こちらを睨みつける。
「だから庶民は嫌いなのよ。」
ものすごく冷たい目をして、彼女は俺以外の人も、順番に睨みつけていた。
「あんたたちみたいな社会の歯車が、死んだ目をして毎日生きてるから、世の中何も変わらないのよ!馬鹿じゃないの!」
ものすごい剣幕で怒っている彼女は、一体誰なんだろう。
あまりにもひどい言いように、さすがに気分を害した人が叫ぶ。
「おいおい、そんなこと言って、あんたは庶民じゃないっていうのかよ。だったら電車なんか使わないで、自家用車の送迎でもしてもらったらどうだ?」
「そうだそうだ!俺たちだって、毎日好きでこんなことしてるんじゃないのに。ふざけんな。」
怒号が飛び交う中、俺はホームに到着した電車に飛び乗る。
「ふう…。」
発車後も、その人だかりが窓から見える。
真ん中に立つあの女性は、相変わらず怒りながら、周囲を睨みつけていた。
(一体なんなんだ、朝から。)
すかさず、SNSを開いて検索する。
『なんか朝からやばいやついた(笑)うるせー』
『庶民とか怒鳴ってたけど、一体どこかの令嬢か何かか?笑える』
『ただでさえ混んでるホームなのに、変な人だかりができてて、迷惑だった…』
『あれってもしかして、同級生かも。』
(ん?同級生?)
ひとつだけ他とは違う投稿を見て、そのアカウントをのぞいてみる。
プロフィール欄には、外資系企業に勤務していること、そして名門校の卒業生であることが記されていた。
この同級生ってことは、やっぱりあの人もそうなのか?
朝から変なの見ちゃったなー、と思いながらも電車に揺られるうちに徐々に意識は別のことへと移っていく。
(あ、そういえば、あの部署の可愛い子、確か同じ電車だったんだよな。いないかなーなんて。)
キョロキョロと周りを見渡しても、その子は見当たらず、がっかりする。
(とりあえず俺もなにか投稿しておくか。)
もう一度アプリを開いて、投稿画面を押す。
『今日も変わらず、線を辿って歩けた。良い1日になる気がする。』
ポエムくさい文章にちょっと照れ臭さを感じたが、どうせ匿名なのだからと投稿ボタンを押した。
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