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穏やかな空気
会社の最寄りの駅に着き、のろのろと歩いていく。
「おはよ。」
同期の上条だった。
「あーおはよ。」
「今日は無事にいつも通りの電車に乗れたからよかった。また遅刻したら、俺まじでクビになりそう。」
言葉とは裏腹に全く焦っていない感じが上条らしい。
サラサラとした黒髪に、鼻筋の通った凛としている顔は、社内でももちろん人気だった。
「まじでクビになったら、笑えるのにな。」
「おいおい、同期なのにそんなこと言うなよ。悲しいだろー。」
「あ、そういえば、今朝ホームで何かすごいの見ちゃったんだよ。」
「え、何?」
興味津々な顔を向ける。
「いやーなんかよくわかんないけど、ホームですごい叫んでる女の人がいて。言ってることがなんか、庶民はどうたらってなんかちょっと変わったことでさ。」
「えーやばいな。」
「まー別に普通っぽい人だったんだけど、やたら大きい声で騒いでるからさ、みんな注目しちゃってて。」
そう言って、SNSの画面を開きながら、上条に見せる。
「ほら、検索して見たらこんなにみんな呟いてて。」
「ふーん…。てか、これ和樹のアカウント?」
画面下に表示されている俺のアカウント名を指差しながら聞く。
焦って画面を閉じたが、上条はすでに名前を覚えていた。
「俺もやってるからさ、フォローさせてよ!」
「知り合いには誰にも教えてなかったんだけど…。」
「いいじゃん、大丈夫だって。」
(何が大丈夫なのかわからない。)
不服だけれど、仕方なく、上条のアカウントもフォローする。
「どれどれ…。線?」
「あーもう!読み上げるなって。」
「ごめんごめん。まあ気にすんなって。」
身長も俺よりも高い上条を制止するのは不可能だった。
「あ、あと、昨日和樹の部署の光ちゃんから聞いたんだけど。」
「光ちゃん…?誰だ?俺下の名前覚えてない。」
「んーっとね。なんだっけな苗字…。」
(おいおい、苗字しらなくて下の名前だけ知ってるって、どうなったらそうなるんだよ。)
呆れながら、ため息をつく。
「まあでもそれは良くて、なんか今日から和樹の部署に新しく入る人がいるらしいって聞いた。」
「え?こんな時期に?中途とか募集してたっけ。」
「なんか訳ありそうだよな。」
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