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少なからず躊躇いを覚えた。
まさか話してくれるとは思いもしなかった。
もし、これが望月大臣の耳にでも入ったら、彼の検事生命は危うくなるかもしれない。
にも関わらず、私達に包み隠さず話してくれた。
私はその事が気になり始めた。
「あの、よろしいのですか?ここまで話して頂いてあれなんですが、望月大臣の耳にでも入ったら」
「いいんですよ。覚悟はできてます」
大鹿検事の表情は実に穏やかだった。
しかし、その穏やかな表情の裏にはある執念が潜んでいた。
「私は一度だけ信念を曲げてしまった。しかし私はどうしても東京でやらなくてはいけない事があった」
「やらなくてはいけない事?」
「こればかりは話せません。個人的な事情ですし、事件とは関係ありませんので」
大鹿検事はこれ以上は何も喋らなかった。
すると影原警視正が動いた。
「大鹿検事。実は見て頂きたいものがございまして……」
そう言いながら、警視正は鞄を開いたまま持って立ち上がった。
被害者達の写真を手にしていたが、不安定な持ち方をしたせいで、鞄の中の私物が机の上に零れ落ちてしまった。
「ああ、すみません」
影原警視正は慌てて私物を鞄の中へとしまい始めた。
「何やってんですか!?」
私も突然の出来事に驚きつつも、一緒に片付けた。
一瞬、大鹿検事の方を見た。
彼は怒ってはおらず、1冊の文庫本を手にしていた。
『梟首の男』だ。
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