第1話 屈辱の初陣

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1時間後、棚瀬がやって来て、捜査状況を報告してくれた。 でもその表情は暗く悲しげな顔をして来ると思っていた私の予想とは真逆で、少し穏やかで和らげな表情をしていた。 「まず被害者の事件前の経緯についてですが、最後に被害者を見た人物から情報を得ることができました」 和らげな表情の正体が分かった。 開口一番に朗報を聞いた。 「それはどんな情報?」 だけど素直に喜びを顕にはせず、依然と表情を固くしながら詳しく聞いた。 「その人物は被害者と同じ浮浪者でして、被害者がスーツ姿のセールスマンから何かを渡していたそうです」 「何かを渡していた?」 「何せ遠くからその様子を見ていたそうなので。しかしその男の特徴は見えたそうで、眼鏡をかけたスーツ姿の若い男性との事です」 目撃情報を聞いた私は少し考えた。 「その男をマークしますか?」 私の考えを遮るように、棚瀬が横槍を入れてきた。 そんな棚瀬に憤りを感じたが私の結論は既に決まっていた。 「勿論、その男はマークするわよ。だけど、くれぐれも結論を急ぎすぎて先走っちゃダメよ」 「どうしてです?」 棚瀬は私の判断に若干、不満そうに聞いてきた。 「その男は事件とは関係ないかもしれないじゃない。もしかしたら仕事を紹介してくれる支援団体の人間かも知れないし、渡した品物だって履歴書の可能性も充分に有り得るわ。違う?」
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