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「全く……いい迷惑だよ」
望月さんは秘書の冨屋に対する恨み節を発しながら、事務所の机を持ち上げた。
今日、私と影原警視正は望月さんの選挙事務所に使われるはずだった場所に来ていた。
あの事件の後、望月さんは正式に出馬表明の辞退を選挙管理委員会に申し出た。
「全て秘書が勝手にやった事であり、私は無関係だ」とマスコミに釈明したが、一部では今だに『望月大臣黒幕説』が流れていた。
「ふざけた連中だよ。私は無関係なのに黒幕だと叩きおって!」
望月さんは文句を垂れながらも、選挙事務所の備品などを片付けていた。
「これで分かったでしょ。真実を話してるのに聞いてくれない者の悲惨さを」
「それは皮肉か。影原?」
望月さんの眼光が影原警視正を貫いた。
「それで用はなんですか?事務所の片付けを手伝えというのならお断りしますが?」
影原警視正は至って冷静に対応した。
「とぼけおって……分かってるんだぞ。お前が佐竹幹事長に要らぬ入れ知恵を吹き込んだんだろっ!!」
望月さんの怒声が事務所内に響き渡った。
「俺は言った。こんなの簡単に切り抜けられる。秘書の冨屋は2ヶ月前に辞めたことにしてその方向で固められるから問題ないとっ!それでも幹事長の意思が覆る事はなかった。それどころか代わりの立候補者を立てる準備まで俺に見せつけやがった。準備が早すぎると思わないか?誰かが前もって入れ知恵したんだ」
望月さんは影原警視正に向けて指をさした。
「それがお前だ。影原」
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