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「…………フッ、全然違うな」
笠沼がゆっくりと頭を上げた。
奴は憎たらしい笑みを浮かべていた。
「宝石強盗?何眠たい事言ってやがる。そんな事件が起きてたなんて初めて知ったぜ」
笠沼は宝石強盗の関与を否定した。
「第一、証拠はあるのか?遺書にそんな事が書かれていただと?読んでもいないくせによくそんな事が言えるな。亜理沙は馬鹿な女だから遺書を書くという行動を忘れていた。それが答えだ」
「亜理沙は馬鹿な女か……いーや、彼女は賢い」
俺はそう言って鼻で笑った。
「彼女は遺書を書いてた。しかし遺書の存在が先にバレたら元も子もないとみたんだろう。だから何通か書いたんだ。下書きもかねて。でも清書となる遺書を見つけたからお前は胸を撫で下ろした。しかし…………」
俺は鞄から一体のぬいぐるみを取り出した。
亜理沙さんが大事に抱えていたテディベアだ。
俺はテディベアの背中にある切り筋の手を入れそこから1枚の紙を取り出した。
その瞬間、笠沼の表情がこわばった。
口はあんぐりと開き、奴の眼は俺が持ってる封筒、一点のみを見つめていた。
亜理沙さんがしたためた遺書だ。
「清書は一通とは限らないんだよ」
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