ライラックの恋

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―現在― *side紫乃* 明日は、傘の出番はなさそうです。 『よかった...』 夕飯の準備をしながら、テレビから聞こえてくる天気予報に安心する。 どうしても、雨は好きになれない。 あ、連絡しておこうかな。 出来上がったばかりの、パスタをお皿に盛り付けた後でスマホに手を伸ばす。 見慣れた緑色のアプリを開き相手を探す。 【お久しぶりです】 『...、』 そう文字を打ったところで、 ニ週間前に会いに行ったばかりだけど、と一人思った。 【明日、会いに行こうかなと思ってるけど おばさん何時頃行く予定?】 堅苦しい挨拶は始めだけ。 それだけ、打って送信する。 『いただきます』 ブロッコリーときのこの和風パスタ。 一人暮しは簡単な食事ばかりになってしまう。 栄養偏ってるよね。 養護教諭失格かなぁ...。 食べ始めてすぐに、テーブルに置いたスマホがブブっと震えた。 『返事早いな おばさん、今日休みだったのかな』 【こないだ会ったじゃない! 明日は、夜勤明けだから午後からいくつもり 紫乃ちゃんもその時間に合わせて来たら?】 『ふふ、さすがおばさん ツッコミ冴えてますね、と』 何回かやり取りをし、 14時に待ち合わせることにした。 【そういえば、先週病室移動したの ナースステーションで聞いてね】 え、なんで? 【あ、状態が悪くなったとかではないから安心して?】 返事をする前に、続けておばさんからメッセージが届く。 びっくり、した。 分かりました、と返事をしやり取りは終わった。 いちいちドクリと音を立てて、心が震える。 指先が冷たくなっているのに今更気付いた。 怖い。 また、失ってしまうじゃないかって そんなことを考えない日はない。 だけど振り返ったり、後ずさりをすると 叱られてしまう気がして... 前には進めないくせに、 逃げ出すことも出来ない。 同じ所にとどまったまま、 月日だけが流れている。 いなくならないって、 言ったじゃない。 嘘つき。
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