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―六年前―
*side朱生*
自室に戻り、ベッドに仰向きに寝転がる。
紫乃、泣きそうな顔してた。
兄ちゃんも...俺のこと思って言ってくれたんだって分かってる。
ニ歳差で、俺よりほんの少し大人。
兄ちゃんはカッコよくて、頭も良くて...
俺の自慢だ。
紫乃のことも、小学生くらいまでは本気で姉みたいな存在だと思ってた。
俺が中学に上がった頃、二人が特別な関係なんだって気付いた。
その頃から、なんとなく二人が一緒居るところを見たくなくなった。
二人のことは大好きなのに、
なんでそんな気持ちになるのか分からなくて...
そっけなくなったり、変な態度をとったりしてたと思う。
周りの友だちから
兄ちゃんかっこいいとか、兄ちゃんの彼女が美人だとか言われても全然嬉しくなくて...
むしろイライラが募っていった。
どんなに同じ時間を過ごしても、
常に二人は少し先を歩いてる。
走って追いかけても、
決まったペースを乱さずに先に行ってしまう。
いつまでたっても、
【守ってあげたい】【支えてあげたい】対象でしかない。
それを、行動や言動から感じるたびに悔しくてたまらなかった。
中学ニ年生になった頃から、
紫乃を姉ちゃんって呼ぶのを止めた。
紫乃は、全然納得してなかったけど。
なんで、兄ちゃんは呼び捨てにしてんのに俺は駄目なんだよ。
ドロリとした、嫌な感情が顔を出すことが増えていった。
鈍感な俺が気づかない方がよかったことに気づいたのは、中ニの冬頃。
二人がキスしてるのを偶然見たとき。
頭が真っ白になった。
それと同時に、
俺は紫乃好きなんだって気付いた。
いつからか、なんて分かんない。
でも、多分ずっと...
自分でも気づかないうちに育ってしまった気持ちは、もうどうしようもないくらい大きくなっていた。
なんで、俺じゃだめなんだよ。
兄ちゃんより、かっこいい男になるから。
だから、いつまでも弟扱いすんなよ。
俺は紫乃の弟じゃない。
紫乃は俺の姉じゃない。
何年も抱えている気持ちが、
行き場をなくして俺の中で嘆いている気がした。
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