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「……あっ、あぁ、締まる」
へこへこと腰を振っていた男が大きく痙攣し、くたりと私の身体の上で果てる。腟内の奥に入れてある御簾紙(※1)が精液を吸収してくれているだろうか。この男の時だけは、神に祈っちまう。胎児ができぬように、と。
中のヒダがこの男の種を子宮に届けようと躍起になっている。その不快感に下唇を噛む。
「夕霧、おまえのぼぼは極上だ。ここで極楽浄土を味わえる。……おまえをここに入れてよかったよ」
「嬉しく思っております、親父様」
でっぷり太った身体が裕福さを表している。私の胸元に顔を埋める男の後頭部を撫でた。
この廓で私を幼少期の名で呼ばないだけ、まだこやつの中に粋という認識があるのかもしれない。裸同士の肌をくっつけ合うと互いに汗をかいている。男の毛深い脛と腿が穢らわしい。
「……年々おまえを買うのが大変になってきた。金はいいんだ。他の客と奪い合うというのも愉しいもんだ」
「親父様が望んだことにありんしょう」
ここに売られたのは私が八つの頃だった。売られるほど身銭を切る生活ではなかったはずだ。病を患った母上がいたわけでもない。ここに売られてきた壮絶で同情極まりない女郎たちの数多ある話より、私のほうが下劣だった。
父が私を売ったのはただの道楽だ。そして、ここに通い自らの娘と遊ぶことも同じくただの道楽だろう。
「私の前で、廓詞(※2)はやめてくれ」
「申し訳ねぇ。もう随分とここに染まっちまってなぁ。母上さんは元気かい?」
「あぁ。ま、それなりにな、他の男に熱を上げちまって、大変さ」
元から白いまんまを食えていたんだ。女衒がどれだけ魅惑的な言葉をかけたって私には届かなかった。父と縁日にこの廓の近くまで遊びに来ていた頃を思い出す。それがいつしか、大門を潜っちまっていた。
八つの頃だってすべてが分かっていたんだ。ここは偽りの世界だが、更に偽りを重ねなければならない、と。親父様の道楽の為に入れられたのだ、と。
「……親父様はそれでいいのか?」
「あぁ。止めたところで無理だろう。それよりもこうして娘と夜を共にするほうがなによりの幸せだ」
地獄に住む鬼のようだ。
にか、っと清々しい笑みを浮かべるこの男が心底憎らしいと共に恐ろしい。己の娘のぼぼに突き刺せるまらなんてないだろうよ。あってたまるもんかよ。
「さぁ、夜は長い」
私の唇を吸い上げた男。その舌を噛み切ってやりたくなる。
※1 御簾紙という紙を口で噛んで小さく丸め、膣の奥に入れ精子が受精しないようにする避妊行為
※2 ありんす言葉。吉原という夢を売る場所で、遊女の出身を隠すために統一して使われた言葉遣い
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