二匹の兎

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「……孕ませたい」 今宵の旦那からそんな言葉が飛び出し、私は口内に入っている陰茎に歯を立てた。己の言ったことがどれほど愚かなことか理解した旦那は、ぼそり、──すまなかった。と謝罪する。 こちらとしては、それだけ馴染みでも、どれだけ金を落としていようとも、夫婦(めおと)遊戯(ごっこ)を解消することができる。その言葉ひとつでだ。 私は口内に入った熱く固いものを精一杯締め付ける。孕ませたいと言った旦那のその種を使い物にならないように、上の口から飲んでしまやぁいい。ぐちゅり、ばちゅり、淫らな音が座敷に響く。口内は私の唾液と旦那の体液が混ざり合い、忙しない。頭を懸命に振り、喉を締める。 陰茎に這う筋を舌先で弄び、玉袋を指先でゆるゆると撫でる。私の口内には苦い味が染み渡ってきた。 「、あぁ……夕霧! そ、そのような……、っ」 旦那は下唇を噛み締めしめ顔を顰める。漏れ出る吐息が果てる合図だというを知ったのは十の頃だ。亀頭部分に強く吸い付き、また、舌を押し付ける。玉袋をより一層、強く撫で、皮を引っ張り、生える毛を摘む。旦那は腰をびくり、小刻みに震わせた。 「ゆ、ぎり……離しておくれ!、…おまえの顔にっ…っあ“!!!」 陰茎の筋が浮き出て、更に波打ち、びゅくり、旦那は欲を吐き出した。白い液体が私のほお目掛け飛び散る。 「……あ、ああ、夕霧すまない! おまえの美しい顔を汚してしまった」 乱れた息を吐きながら精一杯懇願する旦那。私はその欲を拭うことなく旦那を見上げる。 「気持ちよぉありんしたか?」 「ああ! もちろんだとも」 私のほおに垂れる自らの体液。私を汚した罪悪感と興奮が入り混じるのか、旦那の陰茎はまたもや、ぐぐ、と天を向きはじめた。玉袋をぺろり、舌先で刺激する。 「主様を愛しておりんす。まことのこころだ。けんどな、ここで孕ませたいなどと二度とおっせいすな。……主様との子を流しとうない」 おまえの子など孕みとぉない、などとは思っても言わない。廓で子を孕めば、中条流(ちゅうじょうりゅう)(※1)で堕すことになる。運悪く間に合わなければ、出産をし、男なら男衆に、女なら女郎になる。どう転んでも、廓で子を孕むべきではない。己の子を廓に沈める親がいてたまるものか。 「すまなかった。それほどに愛しいと伝わってくれればよいが、夕霧にとっては酷な言葉だったな。この通りだ」 陰茎を天に向けたまま、こうべを垂れた旦那。 ……無様なことだ。 軽蔑の眼差しを向け、旦那が頭を上げた瞬間にその表情を隠す。──さいざんすなぁ。わっちも噛んでしまい申し訳ありんせん。と偽りの言葉を並べる。 ※1 流産させる専門医のこと。当時は水銀を飲ませたり、子供を器具でかき出したりと無理矢理流させる方法が多かった
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