二匹の兎

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はじめて他の見世に入った。こんな容易く入れていいのかと思ったが、草履を脱いで階段を上がっても誰一人として止める者はいなかった。 花扇の自室に迷い込むと、一番初めにびいどろ(※1)が目に入った。金魚のいないその鉢は文机に鎮座している。 「死にんしたか」 「……ああ、先程文が届いてな」 「わっちのおかげだと思うなら、その浴衣脱いでおくんなんし」 微かに聞こえたその声に耳を疑う。──え?と声を出そうとしたその瞬間に花扇の手が伸びてきた。旦那に抱かれた後のあの独特な気怠げを携えながら、私をその胸に抱き寄せる。香木の香り高い匂いが鼻腔を擽り、胸が高鳴った。 「な、なにをいうか?!」 「よいだろう。おまえさんもこういったことには慣れておろう。それにわっちたちはこれしか売るものがない」 私の浴衣の胸元に花扇の手が忍び込む。触れるか触れないかの絶妙な場所を弄るその指先に、私の身体が震えた。まるみを人差し指が行ったり来たり。男の扱いだけでなく女をも慣れているのか、私の腰はどんどんと砕けていく。 抵抗していたはずの身体が、惚れた弱みなのか、親父様が死に解放された安堵感からなのか、受け入れはじめていた。 「吉原一と謳われるだけある。なんとまぁ美しい」 「……はな、おう」 「どうした。切ないか」 もう浴衣の胸元ははだけており、片方の乳房は丸見えになってしまっていた。その見えている乳房を下から押し上げるように揉みしだく花扇の手。しなやかでふわりと柔らかいその手先。やめてくれと最後の足掻きをしたが、こやつには伝わらないのか、隠れている乳房の先端をかり、と爪で掻かれてしまう。 背中をなにかが駆け巡る。脳にまで達した快感は、吐息を漏らすまでになってしまっていた。 「随分可愛い顔をする」 膨れ上がる乳頭を戯れるように、こり、と引っ掻き、そして強弱をつけて引っ張る。手慣れたその行為に、ぐじゅりとなにかが湧き出てくる感覚がした。全身が敏感になっていく。 先端に花扇の舌がまとわりついた瞬間、堪えていたなにかが全身を駆け巡る。じゅるり、舌で転がされ、吸われ、がくがくと腰が立たなくなっていく。 「もう立っていられぬか。来い」 花扇の手で浴衣の帯を解かれ、生まれたままの姿になってしまった私。情けなくも花扇の言う通り、腰は砕け、花扇に身を預けるような格好になってしまっている。花扇は私の身体を支え、自室の奥に進んでいく。歩くたびに足を伝う蜜。 「……花扇」 「どうした?」 花扇の香りのする布団に座らされ、私は組み敷かれている。もうぐずぐずだった。 目元に溜まる私の涙を楽しそうに見つめてくる花扇。こやつの舌で涙さえ舐め取られてしまう。 ※1 和ガラス
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