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いきなり乗り込んできたのですから、てっきり、苛めただの殺されかけただの喚かれると思っていたのですけど。
学園でまことしやかに噂話が流れていたのよ。
曰く、わたくしがラベンダーを苛めていると。
実際、彼女は誰かからの被害にあっていたらしく、汚された制服で帰宅したり、先日も、階段から突き落とされたりしたようなのよね。
ゲーム内で発生した意地悪イベントとほぼ同じ。
もっとも、わたくしはイベント発生現場に居ないように心がけ、尚且つ、人目の多いところに行っていました。
例えば、丁度よく誘っていただいたグラン侯爵家のお茶会だとか、学園の生徒会室とか。
そうやってラベンダーを苛める事ができない場所で目撃者を作っておきましたから、冤罪を受けることも無いと思うのだけれど。
ところで。
ラベンダーはいつまで土下座し続けるつもりなのかしら。
まさか、わたくしが良いというまで?
……その、まさかのようですわね。
いつまで待っても一向に顔をあげる様子がないの。
「ラベンダーさん。顔をあげてちょうだい。わたくしは、土下座をされる覚えはありません」
わたくしの言葉に、ラベンダーはやっと顔をあげました。
相変わらず、愛らしい容姿。
サラサラのプラチナブロンドは絹の様に艶やかで、ラベンダー色の瞳は大きくぱっちりと、ほんのり桜色に染まる口はふっくりと柔らかそう。
流石ヒロイン。
烈火の如く赤い髪、猫のようにつり上がった瞳、キツイ化粧で赤く染めた口元。
まさに悪役令嬢といったわたくしの容姿とは正反対。
「さぁ、まずはこちらに座って頂戴。お話はそれからでしてよ」
わたくしが席へ促すと、ラベンダーは愛らしい口元をキュッと引き結んで、席に着きました。
なにか、わたくしに話したいことがおありのようね。
ヴァルス王子には相応しくないとか、そういったことかしら。
「クーデリア様、助けてください! クーデリア様も転生者ですよね?」
「え」
思わず、わたくしは扇子を取り落としそうになりましたわ。
転生者。
いま、ラベンダーはそう言いまして?
つまり彼女も?
「……貴方達、しばらく二人きりにして頂戴」
わたくしは、急ぎ、人払いをしました。
これは、人に聞かれると不味いわ。
二人きりになると、ラベンダーは少しほっとしたのか、紅茶に口をつけました。
「勘が当たって、良かったです。外れてたら、わたし、ただじゃすまない所でしたよね?」
「……公爵家に何の連絡も無く乗り込んできたのですから、今でも十分、ただでは済まない状況だと思うわよ」
本来、とっても非常識だ。
学園内はまだ平等がうたわれている分、身分が緩い。
けれど一歩外に出ればわたくしは公爵家で、ラベンダーは伯爵家。
身分の低いものが高いものの家をいきなり押しかけるなど、合ってはならない。
「こんな話、学園では絶対に出来ませんし、もう、残された時間も無いんです」
「残された時間?」
「はい。わたし、階段から突き落とされたんです。つまり、後数日後に、婚約破棄断罪イベント発生、ですよね?」
確認するように、ラベンダーはわたくしを見ます。
えぇ、そう。
ゲーム通りに進んでいるなら、ヒロインであるラベンダーが階段から突き落とされ、その頃にはラベンダーと恋仲になっている王子は激怒。
わたくしを呼び出し、皆の前で婚約破棄をする。
……でもそれって、ラベンダーの理想どおりよね?
わたくしに助けを求めるのはおかしいと思うのだけれど。
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