悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました

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「わたし、ヴァルス王子と恋仲なんかじゃありません。正直、許せないと思っています」 「えぇ? それはなぜ。王子は、誰にでも優しく、見目麗しいお方でしょう」  正直、前世の記憶がなかったらわたくしも惚れてたんじゃないかしら。 「そうですね、優しいと思いますよ? でも、婚約者がいるのに他の女に惚れる男なんか真っ平ごめんです」  きっぱり言い切るラベンダー。  言われてみれば、確かにそう。  ヒロインは庶民から伯爵家の娘になり、最終的に王子と結ばれる。  一見シンデレラストーリーですわ。  見目と家柄は良いけれども性格の悪いライバル令嬢たるクーデリアを振って、自分を愛してくれるというのはこう、心踊らなくも無いの。  でもよくよく考えれば、王子最低としか言いようが無いわよね。    でも……いま目の前にいる相手はこの世界のヒロイン。  しかも転生者。  これは演技で、わたくしを嵌めようとしている可能性は高いのではなくて?   「信じてもらえませんか? 実はわたし、クーデリア様のお兄様が好きなんです」 「お兄様を?!」  衝撃だ。  ディーンお兄様は、わたくしの二歳年上で、確かにヴァルス王子に負けず劣らずの美形。  母親似の色彩を受け継いだ兄は、淡い茶色の髪と、ちょっと釣り目気味のトパーズ色の瞳をしている。  眉目秀麗才色兼備。  将来的には公爵の地位を受け継ぐでしょう。  そして未だに婚約者も居ない。  確かに、好かれる要素はあるけれども、一体どこで知り合ったの?  学園ならお兄様とは確かにすれ違うことぐらいはありそうですけれども。  ゲーム内では、兄は攻略キャラクターではなかったし。 「でもお兄様を好きならなおの事、わたくしは邪魔ではなくて?」  ヒロインであるラベンダーをいびり抜くのがクーデリアだ。  学園で苛めていないからといって、これからもそうとは限らない。  お兄様を好きなら、性格の悪い妹は、邪魔でしかないと思うのだけれど。 「もちろん、ゲーム内のクーデリア様だったら、近付きたくありません。でも、いまこの場所にいるクーデリア様はゲームのクーデリア様じゃないですよね」  まぁ、それはそう。  この世界に生まれた時からお嬢様言葉を使わされていたから、口調こそこうだけれど、中身の性格は前世のそれに近いと思うの。  虐めなんてしたくもないわ。 「それに、クーデリア様はご存じないかもしれませんが、クーデリア様に何かあると、ディーン様は自害するんです」 「えぇっ? それは、ゲーム内ではそうだった、という事ですの?」 「はい。わたし、乙女ゲームが趣味だったから、『ラベンダー色に色付いて』もとことんやり尽くしたんです。  毎回毎回、どのルートでもクーデリア様は断罪され、国外に追放されたり、修道院送りになったり、公爵家そのものが潰れたり。  エンドロールでその後が描かれているのですけど、クーデリア様を守れなかったディーン様は、後悔とともに命を絶ってしまうんです。  だから、クーデリア様には何が何でも、無事で居てもらわないとならないんです。  わたしに、協力してください!」
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