悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました

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 そうして、わたくしは断罪の日を迎えた。 「クーデリア、よく来たな」  ヴァルス王子が取り巻きとともに廊下を塞ぐ。  何事かと、周囲に人が集まり始めた。  わたくしは、扇子を開き、こくりと息を飲んで平静を装います。  正直、今すぐこの場から逃げ出したい。  ヴァルス王子には、ラベンダーが話をつけてくれています。  ですが、不安は残ります。 「わたくしをこのようなところに呼び出されるなんて、どういうことかしら」  精一杯、虚勢を張って、冷たい声音で言い返します。  足がカタカタと震えていますが、スカートで隠れているから大丈夫でしょう。  ヴァルス王子の隣には、怯えた表情のラベンダーが居ます。  ゲームのスチル通り。    ヴァルス王子が、一歩前に進み出ます。   「貴方に、言いたいことがある」 「何でございましょう?」 「ここにいる、ラベンダーについてだ」  どくん、どくんと心臓が鼓動を早くします。  あぁ、もう、このまま倒れそう。  ラベンダーが、こくりと頷いて、一歩、前に進み出ます。  そして――。 「クーデリア様、いつもありがとうございます!」  パッと。  後ろ手に隠していた花束をわたくしに差し出すラベンダー。  大丈夫ですよと言いたげに、その瞳が笑っている。 「クーデリア、貴方は、ラベンダーが衣類を汚され、苛められているのを助けてやったそうだな。  立ち居振る舞いについて諭したり、この学園で過ごしやすいように指導していたとか。  どうしても、女生徒については私の目は届き辛い。  私に代わり、ラベンダーを助け続けてくれた事に、感謝する」  ヴァルス王子が皆の前でわたくしに頭を下げます。  わたくしは、ほっと息をつきました。  ラベンダーから花束を受け取り、王子にも頭を下げます。 「人として、当然の事をしたまでですわ」    でも意外ですね。  ラベンダーが制服の事を知っていたなんて。  わたくし、ラベンダーが泥だらけの制服を着ていたから、こっそり、彼女のロッカーに替えの制服を入れておいたのです。  サイズがわたくしと丁度同じなのですよね。  あの泥だらけの状態では、染みが落ちないでしょうから。  買い直すにしても時間がかかりますしね。  基本的にわたくしはラベンダーを避けておりましたけれど、あの泥の姿はあんまりで。  わたくしは数着、未使用分も含めて持っていましたから、匿名で使ってくださいとメモ書きを置いておいたのですけれど。  いつ、見られていたのかしら。 「いつでも優しい貴方を、大切に思う」  ヴァルス王子が、わたくしの手をとり、自分のほうへ引き寄せました。  え。  あの?  腰に手が回っているのですけれど? 「初めて見たときから、ずっと、お前だけを愛してる」  耳元で囁かれ、そのまま、強く抱きしめられました。  あの、あのっ?!  一体、何が起こっているのか。  こんなことはゲームにもありませんでしたし、ラベンダーとの打合わせにもありませんわよ?!
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