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「待って! その女は、ヴァルス王子の思っているような女ではありません!!!」
周囲の人ごみの中から、声が上がりました。
人混みがモーゼのようにざっと左右に分かれました。
そして、立っていたのは、マウテア・グラン侯爵令嬢だった。
「貴方はグラン侯爵令嬢だね。私の婚約者を否定するのであれば、それなりの証拠があってのことだろうね?」
「もちろんですわ。わたくしは、知っておりますの。ラベンダーを苛めていたのは、クーデリア様です!」
皆の前で堂々と言い切るマウテア。
あぁ、そうなのね。
マウテアが噂を流していた犯人だったのね。
「その苛めの証拠とやらを見せてもらおうか」
「証人がいますわ。ラベンダーの教科書が破られた、五の月の木曜は――」
「クーデリアは魔法特別魔法講座を受講していたからね。学園の離れで魔法学教授とともに数人の生徒が証人だが?」
「で、では、ラベンダーが頭から泥を被せられた時――」
「私の手伝いで、生徒会室に来てもらっていたが。書類が多すぎて、私一人では処理しきれなかったからね」
出来るだけ、ヴァルス王子とはかかわりたくはありませんでしたけれど。
書類に埋もれて目の下に隈を作っている姿はいたたまれなくて、つい、手伝ってしまったのよね。
「ラベンダーの靴が盗まれたときは――」
「わたくし、グラン侯爵家のお茶会に招かれていましたわ」
「嘘よ! わたくしは招いていないわ」
「他のご令嬢もいらしていたのに?」
「くっ……」
グラン侯爵がお茶会に招いてくれたのも、嵌める為でしたか。
靴が盗まれる日だったので丁度よいと思ってお茶会に出席していましたが。
ですが二人きりならばともかく、お茶会ですと複数人の出席者がいるのが常です。
わたくしにアリバイを作れないようにしたかったのかもしれませんが、ちょっと、ずさんな計画だったのではないでしょうか。
「……かっ、階段から突き落とされたときは!」
「クーデリアは体調不良で学園を休んでいたね」
念の為、学園を休んでおいてよかったわ。
「………………」
「それだけか?」
黙ってしまったマウテアを、ヴァルス王子は冷たい目で睨む。
え、何、怖いのですけど。
それに、わたくしを抱きしめる腕に力がこもっていて、あの、その、ちょっと?
「お、おかしいわっ。クーデリアは悪役令嬢ですのよ?! どうして、こんな……っ」
ラベンダーと目が合うと、こくりと頷きました。
わたくしと、ラベンダーが打ち合わせ中に気づいた事。
それは、わたくしはしていないのに、ゲームの内容通りに、ラベンダー虐めが発生している事。
最初は偶然かとも思いはしたけれど、細かく数えていけばとても偶然では済まされない数が当てはまりましたの。
ほぼ全て同じといってよいくらいに。
それは、ゲームを知っているもの、つまり転生者が他にもいるのではないかと。
転生者の事は伏せて、ヴァルス王子にはわたくしを嵌めようとしている者がいるから、見つけたい。
そう、ラベンダーは王子に説明してくれたはずなのです。
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