悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました

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 ……わたくしを抱きしめている理由は、ないと思うのですけれども。  犯人を刺激する為だとは思いますが、もう見つかったのですから、離してはいただけないでしょうか。  腕から逃れようとするわたくしを、ヴァルス王子はけれど離してはくれません。 「言い訳は後でゆっくりと聞かせていただきましょう。グラン侯爵令嬢。貴方のご家族も含めてね」  連れて行けと、ヴァルス王子は護衛騎士に命じ、マウテアは連れて行かれました。  でも。 「ヴァルス王子」 「なんだい? 愛しい人」 「あの、もうそろそろ腕を離してはいただけないでしょうか。犯人は、見つかりましたのですし」 「なぜ?」  なぜ、って。  お顔が物凄く近いですし。   「あまり、人前でする事ではないと思われますわ」 「そう。なら、このまま私の部屋に行こう」 「どうしてそうなりますか?!」 「婚約している私たちが二人で居ても何も問題は無いだろう?」  問題ありありです。  わたくしは、婚約を破棄したいのですから。 「と、とにかく、どうか離してくださ……きゃっ」 「離さないよ」  どうして抱きかかえられているのですか?!  そのままヴァルス王子はわたくしを王家の馬車に押し込みました。  何で既に学園の前に馬車があるのか、そこからもう突っ込みたいのですけれども、もう思考が追いつきません。 「ずっと、話したかったことがあるんだ……」  王宮に着き、わたくしを部屋にいれて、やっとヴァルス王子はわたくしを下ろしてくださいました。  けれど、相変わらず腕はつかまれたままですし、ここ、壁際ですし。  逃げ場が、ない、ような。 「わ、わたくしには、特に話しはありませんわっ」  あぁ、声が裏返ってる。  ヴァルス王子が苦笑して、わたくしの髪に指を絡める。  何でこんな、急に、恋人のような事を。 「ずっと、嫌われていると思っていたからね」  するり、するり。  ヴァルス王子の指が、わたくしの髪を梳く。 「やっと、理由が分かったんだ。私は浮気などしないし、クーデリアを裏切りもしない」 「そ、それは……」 「彼女から聞いたよ。ゲームの事も、全てね」  ラベンダー!  あの子は何をしていますの?!  転生云々については伏せるはずだったではありませんか。 「ゲームで私はクーデリアを捨てるそうだけれど、それを聞いて私は納得したんだよ。  私は性格の悪いクーデリアを捨てるのかもしれないけれど、優しい貴方を捨てるわけじゃない」  ヴァルス王子が、辛そうに、顔をゆがめて。  あぁ。  そうね。  わたくしは、まだ裏切ってもいない王子を、避け続けていたのね……。 「クーデリア、覚えてる? 婚約する前までは、私達は、本当に仲良しだったんだ」  えぇ、覚えているわ。  前世を思い出す前だったから、わたくしは歳の近いヴァルス王子と兄妹みたいにいつも一緒に遊んでいたわね。 「雷が鳴った日は、二人で一緒にベッドにもぐって、手を繋いで」 「うん」 「美味しい異国のお菓子を一緒につまみ食いして、乳母やに怒られて」 「うん」  ヴァルス王子がわたくしを抱きしめる。 「いつも、一緒で……っ、でもっ、婚約してから、急に、クーデリアは私を避け始めて……っ!」  だって、怖かったんですもの。  破滅の未来を知ってしまったから。  避けるには、ヴァルス王子から逃げるしかないと思った。  でも。 「ごめんなさい」  わたくしを抱きしめるヴァルス王子の背に、腕を回す。 「もう、私を避けないでくれ」 「はい」  ヴァルス王子の顔が、わたくしの顔の上に影を作る。  わたくしは、そっと、瞳を閉じた。
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