悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました

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 みなさまご機嫌よう。  わたくしは少しも機嫌がよくありませんけれども。  ええ、ええ。  機嫌がよくないというよりは、動揺していると言った方が正しいかしら。  それもこれも、いま、わたくしの目の前で土下座をする少女のせいですわ。  彼女の名前はラベンダー・カワーゼ。  カワーゼ伯爵の一人娘です。  そして、この世界のヒロインですわ。  少し、説明が必要かしら。  この世界は、前世、わたくしがプレイしていた乙女ゲームの世界なのです。 『ラベンダー色に色付いて』という名の乙女ゲームで、ヒロインのラベンダーが最終的にヴァルス王子の心を射止めてハッピーエンド。  まぁ、ヴァルス王子の他にも攻略対象は沢山いたのですけれど、正直、わたくしはやり込んでいなかったから、あまりよくは知らないの。  そしてわたくしは、乙女ゲームの定番、悪役令嬢クーデリア・タイタニック。  タイタニック公爵家の娘であり、現在この国の第三王子ヴァルスの婚約者でもあります。  ……婚約者になんて、なりたくなんてなかったんですけれどもね?!  前世の記憶を取り戻したのが、婚約した後だったんですもの。  婚約前に思い出せていたら、全力で拒否しましたのに。  大体苗字がタイタニックってなんですか。  沈没した船じゃありませんか。  破滅確定だからですか?  でも婚約したのは十歳の時。  ゲーム開始は十五歳の時からでしたから、わたくしには五年の猶予がありました。  どうにか早めに婚約破棄させようと、ヴァルス王子には出来るだけ近づかないようにしていたのです。  こちらは公爵家ですからね。  わたくしから破棄するのは困難なのですよ。  だからヴァルス王子に会うのは最低限、それも形式だけの挨拶で早々に側を離れるように心がけましたわ。  こんなにそっけない婚約者なんて、普通いやでしょう?  幸い、ヴァルス王子の恋人になりたいご令嬢はたくさんいましたからね。  冷たいわたくしよりも、ヴァルス王子に優しく甘える見目麗しいご令嬢にさくっと惚れてくれればよかったのに。    でもなかなかそう上手くいかず、ついにヒロインが学園に入学してきたこの年まで、わたくしが婚約者のままですわよ。  最悪。  学園では、わたくしは全力でヒロインを避けてきましたの。  一応、覚えている嫌がらせイベントがいくつかございましたから、その場所へ行かなかったり、学園を休んだり。  婚約破棄はしたいのですけれど、王子とヒロインの邪魔をした罪でゲーム通り学園の皆の前で婚約破棄を突きつけられてはたまりません。    婚約破棄された後のわたくしの運命は、それはそれは悲惨ですのよ?  ヒロインをこれでもかと苛め抜いていたゲーム内のクーデリアは、その罪を突きつけられ、学園を強制退学。  実家の公爵家からも見放され、国外追放です。  わがまま放題に甘やかされて育った公爵令嬢が、国外に追放されて無事でいるとは思えませんからね。  そんな未来は真っ平です。  ですので、わたくしは絶対にヴァルス王子とラベンダーの邪魔を決してしないように、二人のときにエンカウトしないように細心の注意を払ってまいりましたの。  その甲斐あって、わたくしは学園でラベンダーと話をした回数は一年の間にわずか数回。  片手で数えられる程度です。  なのに、何故か今こうしてヒロインに自宅まで押しかけられて、あまつさえ土下座されているのか。  正直、わけがわからない。
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