短編

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短編

小学校3年生の一人娘を、夏休みの1週間を嫁の実家に預かって貰う事になった。 俺も嫁も共働きをしていて、子供には長い夏休みがあるが大人にはそんなものは存在する事も無く、俺達が休みを取れない期間は俺と嫁の実家にそれぞれ1週間を預からせる事となった。 どちらの実家も孫に会えるのは嬉しい事で、迷いもなく預ける事を了承してもらった。 こういう時、お互いの義理の両親との仲が良好だと頼みやすい。 隣町にある嫁の実家に預けた娘は、遊園地や水族館とレジャーな場所に連れていって貰って楽しんだみたいだ。 義理の両親は、今年も良い思い出が出来て良かったと満足していたが、元気一杯の小学生の相手は体力を使ったのか引渡しの時は疲れきっていた。 お礼に、お義父さんにはお好きなお酒を高めのやつを買ってお渡しして、お義母さんにはカタログギフトをお渡しして大変に喜んで頂いたのは安堵する。 次は、田舎にある俺の実家に預かってもらう。体力が有り余ってる娘でも、年齢が近い親戚の子達や近所の子達と思う存分に遊べるだろう。 一つ心配事があるのは、痩せ気味の娘が田舎の子達の体力に追い付けずに更に痩せてしまったのは去年の事であった。 今年はどうしようかと迷ったが、嫁に大丈夫だと後押しされて決行する事となった。 嫁は、お袋にいつものお願い事を言う。 娘はわんぱくで元気だが、食に対しての関心が薄く少食で、平均より痩せ気味であった。 食事の時に、おかずをオススメしないと食べようとしない癖もある。 今年は、娘は大丈夫なのか?と尾ひれを引かれたがらもその場を後にした俺はこの時は知らなかった。娘に嫌われるということを...。 蝉の合唱と言うのは上品な表し方で、都会よりも木の数が多いせいか、蝉が煩く鳴く。 娘が待つ実家に行く為に、好意で迎えに来ると事前に言ってた従兄弟を照り付けるような暑さの中で待つ。 都会は湿度が高くて蒸し蒸しとして気持ち悪さもある暑さだが、この田舎では直接に照らされるような暑さで、普段暮らす都会とは違った暑さである。 「夏だねぇ」 「日焼け止めしっかり塗れば良かった」 「ドンマイ」 慰めにならない軽い返事に、嫁はムッとして軽く胸に拳を付けてパンチをする。 「痛くないな」 「余計に暑くなった気がする」 「無駄な体力が使わないのが吉だよ。あっ、来た」 ブラックのファミリータイプのでっかい車が目の前で綺麗に止まって、窓が開いて下に下がって坊主の従兄弟が出てきた。 「兄ちゃん、久しぶり」 「悪いね、ここまで」 「いいって、姉さんも久しぶりです。暑いから乗って乗って」 最近の車は便利で、自動でドアが開いてしまう力要らずだ。 中に入ると、冷房がしっかりと効いたヒンヤリとしていた。 進む車を窓の外の風景を眺めると、高い建物もない、娯楽のない変哲な田舎である。 畑や田んぼの風景に毎年、子供の頃を思い出す懐かしさに浸ってしまう。 「着いたさ」 「ありがとね」 建物は、昔の日本家屋に出てきそうな感じで海外の人には喜ばれそうな実家。 「何度見ても素敵ね」 日本歴史が好きな嫁は俺の実家がお気に入りであり、俺の親が昔の人の様に嫁は黙って夫の実家に同居しろって言われたらするかもしれない危うさがある。 幸いに、俺の親は同居が全てと思わない思考の持ち主だが、俺に家業を継げとも言わずに好き勝手させてくれる親である。 「ただいま」 「お邪魔します」 「兄ちゃん連れてきたよ」 俺らの声に反応して、沢山の足音が駆け寄るのが分かる。 親戚の子達、近所の子達が出迎えてきたようだ。自分の子の顔が居ないと知ると悲しいと思うのは仕方ない事だ。 「パパ」 「えっ?」 俺をパパと間違って呼ぶのは、健康的にふくよかな女の子である。 嫁はその子に優しく話しかけた。 「今年も良い子に待ってたね」 「うん」 (今年も良い子に待ってた??) 「どうしたのパパ?」 「変なパパねぇ。どうしたの?」 嫁が俺を覗き込もうとした 「さっきから、パパどうしたの?」 「俺の娘?」 「もしかして...パパ、私の事が分からない?」 涙目から水が溢れて雫が降りた。 「ちょっと、分からないの??」 (分からないって...だって) 「太った?」 俺の言葉を聞いた娘は今までに見た事ないような憎しみを込めた目で言った。 「パパなんて大嫌い」 「ごめんね」 「フンっ」 あれから、娘に謝り倒すが口を聞いてくれない。 「あんたって酷い親ね。自分の子も分からないなんて」 嫁から事情を聞いた母さんが俺に言葉の毒を吐く。 「まぁ、兄ちゃんの気持ちも分かるさっ」 従兄弟は落ち込む俺を何とかフォローする。 「ごめんね。あの子を太らせちゃった」 娘に聞こえないように小さい声で母さんは嫁に話す。 「良いんですよ。健康的な体重ですし、逆に食に興味がなかったあの子をどうやって、あそこまでにしたか気になります」 「田舎でよく食べる料理が好きみたいよ」 「そうなのですか?」 嫁は、興味津々に母さんに料理を聞いていた横で、俺はめげずに娘に話しかける 「パバ、直ぐに気づかなくてごめんね。凄く可愛いよ」 「でも、太ったって言った」 まだ、拗ねてるが話しかけても無視してた数時間を思うと進歩したとポティジブに思って、このまま許してくれて機嫌が治れば良いなと思いながら更に話しかける。 「太ってても可愛いと思うよ」 「やっぱ、太ったって思ったんだ」 「それは...うん。可愛いと思うよ」 「可愛いと言えば喜ぶと思うの?子供扱いしないで」 「子供じゃんか」 「デリカシーない」 親子の会話を聞いていた親戚の人達は、爆笑し始めた。 「おーい、デリカシーないって言われとるぞ」 「煩いな」 「デリカシーないやつよりマシじゃ」 ガバガバと大きな声で笑われてる。 田舎のこの賑やかさが鬱陶しい。 「パパが悪かった...。ごめんね?」 どうすれば、許して貰えるだろうか...。 「仲直りの印に、この前ダメって言ったおもちゃを買っていいぞ」 体がピクっと動いた。背を向けているけど、俺の言葉には耳を傾けてる事が分かる。 「オマケに、好きなカードゲームを10回やってもいいぞ」 ピクピクっ ゲームセンター等にある子供向けの人気アニメのカードゲームがあって、娘はカードをコレクションしている事は嫁から聞いていた。 カードゲーム1回につき100円で、いつもは1回で頑張った日には2回やらせてると聞いてる。10回であれば、子供には贅沢だ。 「んー。要らない」 「要らない!?なんで、あんなにも欲しいって泣いてたじゃないか」 「今、欲しくないもん」 「じゃあ、1番欲しいのなんだ?」 「1番?...うーん」 値段にもよるが、なるべく買おうと思ってる。親に自分を気づいて貰えなくて心に傷を付けたんだ。許してもらいたい気持ちとお詫びの気持ちで欲しいものを買ってやりたいと思ってる。 「あのね」 若干、恥ずかしがりながらモジモジと小さな声で話そうとしてる娘に、俺は一言も漏らさないように体を近づけて、煩かった親戚らは黙る団結力を見せた。 「パパとママのお休みの日は、家族皆で植物園に行きたい」 「植物園?」 「この間、ママと遊び行った所で凄く楽しかった。パパは、休みの時は疲れてるって言って1人でお留守番でしょ?」 平日に追われる仕事が忙しくて、それを理由に休日はずっと家でゴロゴロと過ごしていた。 「いいよ。行こっか」 「ほんとに?」 「ほんと」 「太っちゃってブスになっちゃった私でも大好き?」 自信なさげに聞く娘を抱き上げる。 「確かに、ちょっとふっくらしたけど、可愛いよ。どんな姿でも可愛いし大大大大好きだよ」 「そっかぁ。私、優しいから許してあげる」 「ごめんね。ありがとう」 「次に私に気づかなかったら許さないからね」 「次はないよ」 ギュウって強く抱きつかれて、俺も強く抱き締め返した。 「良い子に育ったねぇ」 親戚が誰かが言ったのを皮切りに賑やかさが戻った。 どんちゃん騒ぎしてる中で、娘は疲れたように眠った。 「寂しいんだろうね」 「私、専業主婦をした方が良いのでしょうか」 「働いてても子供に寂しい思いをしないように出来るだけ努力してるじゃないか。好きな仕事だろ?そう、簡単に辞めると考えんで良い」 「でも、お義母さんだって言いましたよね。寂しいだろうねと...。どんなに工夫しようとしてても寂しく思わせてたら意味ないじゃないですか」 「お前さんは、頑張ってるよ。大丈夫だぁ。ママのスーツ姿はカッコよくて好きって言ってたぞぉ。」 「そう...言ってたんですか」 耐えきれずに涙を流す嫁の背を撫でる。 「おいバカ息子」 「はい」 「働いてるのは嫁さんも一緒じゃ。なのに、お前は怠けて、嫁さんに全部丸投げしてるとは情けない」 「仰る通りで」 「普段の家事とかは、分担してるのか?」 「手伝ってはいる」 「手伝ってるじゃ意味ねぇが。お前もやるんだよ」 情けない息子で申し訳ないと頭を下げる母さんに俺も続く。 「ここまで気付かずに、任せっきりですまん。これからは、お前にばかり負担がいかないように改善していきます」 「期待してますよ」 「はい」 「私たち、2人だけで出掛けるの寂しかったです」 「これからは、俺も外に出ようと思うよ」 「バカ息子は、田舎に育ったのに家に引きこもりって情けないな」 「返す言葉がございません」 ずっと、家族に寂しい思いをさせてきた事に気づいていなかった。 娘は、凄く怒って叶えて欲しい願いは高いおもちゃではなく、家族の思い出が欲しいと願った。自分の不甲斐なさを実感出来て情けない。 あの夏から、休日でも家族皆で遊び行くようになり、食卓も娘が気に入った田舎飯である。 珍しい食材や畑で採れた物を送ってくれるようになって、嫁は教えてもらった味付けをしてるから俺自身は育った味で懐かしく感じ、娘は以前の様な食事に興味が無い感じが改善されて、モリモリと食べるようになった。 勿論、嫁だけ出なく俺自身も料理を手伝いから初めてレベルを上げていき、料理を出来るようになった。 料理以外でも、気がついたら家事をするようになって、少しでも嫁にだけに負担が行かないように努力をした。 娘も俺たちが何かしらやっていたら、お手作いを進んでするようになって自然と家の事を覚えていった。 沢山の思い出を歩んできた娘は、大人になって真面目そうな男に取られてしまった。親に感謝を伝える結婚式で娘は言った。 「1週間、会わなくなっただけで娘に気付かなかったお父さんは大嫌いです。だけど、太った私でも、どんな私でも可愛いと言ってくれるお父さんは大好きです。」
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