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頰に触れると、すでに熱を感じていた。 林檎のように赤い頰をした自分を想像し、急に恥ずかしくなる。 「私、多分もうすごく、赤くなってますよね…恥ずかしい。」 うつむきながら、顔を背ける。 彼が鼻で笑うのが聞こえる。 「今井さん、よかったら連絡先を教えてくれませんか。」 「もちろん、良いですよ。えっと…。」 無駄な動きをすることなく、交換する仕草を見て、彼の生態がますます謎に包まれた。 「…じゃあ、それで!ええ…もちろん!……だから、…そうね。よろしく!」 先生の声が聞こえて、戻って来る気配を感じる。 「君を見てると血が騒ぐ。」 急に耳元で囁かれる。 急激に体温が上がる。 彼の顔を見上げると、すでに先生に向ける涼しげな表情に戻っていた。 「うっかり色々話し込んじゃったわ~。ごめんなさい。あとでまた色々持って来てくれるって。涼君も、良かったら座る?連れの方は大丈夫かしら?」 「ああ、ありがとうございます。そうですね、そろそろ戻ろうかと…。また改めて声かけさせてもらうので、その時ゆっくり話しましょう。」 「そうね。じゃあ、またの機会に。」 ひらひらと手を振り、挨拶をする。 高鳴る鼓動をまだ感じて、口にしたチーズの味が感じられなかった。 「彼、ああ見えて、すごくはっきりしてるところがあるのよね~。」 「そうなんですか?」 「スマートで、そつなくこなしちゃいそうだけど、前に女の子に好意を寄せられた時に、相手が泣いちゃうくらい理詰めにして振ったそうよ。可愛い顔してるから、余計にそのきつい性格にショックを受けたんでしょうね。普段は、ほら、今みたいにニコニコして優しいから勘違いしちゃう子も多いみたいでね…。」 ワイングラスを揺らしながら、彼女が懐かしそうに話す。 この人とも関係していたのではないかと思わず毒々しいイメージを想像させるような表情だった。 さっきの囁きがあまりにも現実離れしていて、自分の空耳なのではないかと思い始めていたけれど彼女の話を聞いて、現実なのだと思った。 そうやって、作っては壊してを繰り返して、生きている類の人間なのだと醒めた思いが生まれる。 「このワインも、すごく美味しいですね。あまり詳しいことはわからないですけど…チーズにも合うと思いますし、素敵なお店を教えてもらえて嬉しいです。」 スラスラと滑り出す言葉が自分のものではないように感じる。 異物を吐き出す感覚だった。
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