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「なら良かったわ。春菜ちゃん、落ち着いてるしこういうお店よく来てるかなって思ってたけど、ちょっと赤くなってるし、そんなにお酒強くないって本当なのね。」 楽しそうに彼女が笑う。 小さな皺が刻まれながらも、健康的なそばかすがわずかに見えるせいか、彼女が笑うといつもひまわりに囲まれた幼い少女を連想させる。 「もっと強ければ、色々な種類を飲み比べとかもできて楽しいだろうなと思うんですけど…。」 「そうね…。まあでも、ゆっくり気持ちよくなるだけ飲めるのが一番良いわよ。浴びるように飲んだって何も残らないし。ただ体を痛めつけるだけよ。若いうちはやりがちだけれど。」 「若気の至り的な行動がもう少し板につけば、年相応に見られるかな、と思うんですけどね。」 グラスをいじりながら、自虐的に呟く。 「あら、気にしてたのね。でも、その年でそこまで成熟した雰囲気をだせる子ってなかなかいないと思うし、私は好きだけどね。若さを売りに、うるさい子もいるじゃない?誰とは言わないけれど。」 クスリと悪戯に笑う。 この無邪気さがほんのわずかに私にもあれば、とまた思う。 しばらく話をしたあと、駅で彼女と別れた。 ロングコートを着た姿が颯爽とホームへと向かっていくのを見つめていた。 電車に乗り、窓から外の景色を見つめていると携帯が震える。 こんな時間に誰だろうと、手にする。 画面に知らない名前が映り、一瞬驚く。 メッセージを開き、彼だと気付いた。 『もう帰宅しましたか?今日は会えて良かったです。気をつけて帰ってください。』 文字から伝わる思いが何も読み取れず、困惑する。 『こちらこそ、ご連絡ありがとうございます。今ちょうど帰宅途中です。』 『遅いので、気をつけてくださいね。僕が送っていければ良かったのですが。』 半信半疑で受け止める。 『ありがとうございます。気をつけますね。』 それだけ送り、携帯をカバンにしまう。 乗客の少ない電車に揺られながら、車窓を見つめた。
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