(5)睡眠、そして目覚め

1/1
前へ
/10ページ
次へ

(5)睡眠、そして目覚め

それから本当に俺は眠ったようだ。 アンドロイドが睡眠を取るなんて初めて聞いた。と言うより体験した。 34時間経った。 眠っていたらしい7時間の記憶はなかった。 俺は目覚めた……らしい。 『目覚めたようだな』 ギザの思念が届いた。 『今からはゆっくり進めるので焦らないでくれ。俺は、技術者や医師たちの伝言役だ』 『医者? どういうことだ?』 『今は言えない。我々を信じてほしい』 『わかった』 『まず嗅覚だ。ゆっくりゆっくり鼻呼吸をしてくれ』 俺はむせかけたが、いい香りだと感じた。嗅覚センサが直ったのだ。もしくは交換したのか? 記憶にない時間に何をされたのかなどわかったものじゃない。だが彼らを信用するしかない。 『次は聴覚だ』 「私の声が聞こえますか?」 今度は思念ではなく正真正銘の声=音波だ。間違いなく両の耳で聞こえた。優しい女性の声だ。 「あぁ、聞こえる」俺は自分の声に驚いた。女性のような声だったからだ。 驚いていると女性の声が言った。 「それでいいのよ。びっくりしないで」 「今から手を握るわ。驚かないでね」 柔らかな手が俺の右手をやさしく握った。 触覚が戻っている。 もう驚かなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加