猫の伴侶

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”愛する同じ伴侶と同じ時代に生きられる事。 それはとても稀有なこと” この前のレッスンで習った。 ”人の一生は、私達にすればとても短くて儚い。 だから人は恋をして命を燃やすのだ” テキストの一ページ目にそう書いてある。 僕は今から始まるこの仕事が楽しみになった。 僕はどうも、今から『道先案内人』という仕事に就くのだそうだ。 それは、亡くなった魂を迷わないようにこちらまで案内する仕事のようだ。 ちなみに僕らのボスは死神で、死が決まっている魂を迎えに行くのが僕の仕事だそうだ。 最初は先輩と一緒に仕事をするが、いずれは一人でこなさねばならないらしい。 今日は初めて先輩と一緒に仕事に出る。 僕の担当は日本という国になった。 同僚には羨ましがられた。 どうも日本を担当するのは僕らには人気のようだ。 「おい、お前、良かったな。初めての担当する国が日本で。俺なんか戦争真っ只中の国が初めての担当だったから、そりゃあ大変だったぞ。 今の日本は平和だし、大概の人は寿命でなくなるから、迎えにいっても聞き分けがいいんだよ。まあ、たまにやばい死に方した魂が暴れることもあるにはあるが、戦時中の国の担当に比べたらマシだな」 先輩が僕にそう教えてくれた。 そうなんだ・・・僕は運がいいのか。 日本・・・どんなところなのだろう。 「さ、今日はあの魂を迎えに行くぞ」 先輩が目の前の老婦人を指さす。 老婦人は家の縁側に座って猫を膝の上に乗せて日向ぼっこをしているようだ。 僕と先輩はその縁側のある庭に堂々と入っていく。 膝に乗っている猫は僕たちに気がついたのか、閉じていた片目を開いて大きなあくびをした。 そして、膝の上から降りて大きな伸びをし、老婦人の横にちょこんと座った。 猫は僕らの方をもう一度一瞥して、老人に向かってニャーと鳴いた。 「おや、珍しいね。お前さんが鳴くなんて。お腹でも減ったかい?」 老婦人はそう猫に言いながら猫の頭を撫でた。 「おばあちゃーん。今晩の夕飯お刺身でもいい?」 部屋の奥から女性の声がする。 「お刺身で良いですよ」 老婦人が優しい声で返事をする。 「はーい。今日、美味しいお魚が手に入ったから、お刺身と煮付けにしますねー」 部屋の奥の女性が続けて言っている。 老婦人は猫の頭を撫でながら 「よかったね〜。今日はお刺身らしいから、少しあなたにも分けてあげましょうね」 そうつぶやいている。 猫はまた大きく欠伸をし、老婦人の手に頭と体を擦り寄せる。 そんな光景を先輩と見ていると、不意にこの老婦人と目があった気がした。 「あら、そんなところにいらっしゃったのね」 そう僕に向かって話しかけてきた。 僕はどうしていいかわからなくなって、一緒にいる先輩に助けを求める視線を投げた。 「このご婦人はお前の事が見えてるんだよ。もう寿命だからな。ちなみに俺の姿は見えていない。お前が担当だからな。お前とご婦人は話ができるよ。さあ、声をかけてあげて」 先輩に背中をトンと押されて一歩前に押し出された。 「お迎えにあがりました。一緒にいきましょう」 そう老婦人に告げる。 「あら、もうそんな時間なのね。少しだけ待っていただけるかしら。この子にお刺身食べさせてあげたいのよ」 先輩が僕に囁く。 「まだ3時間はある。だからそれくらいは大丈夫だ」 「3時間後にもう一度あなたの元へ参ります。それまでごゆっくりどうぞ」 そう告げると、老婦人は優しく僕に微笑んで、また猫を撫でる。そして猫も老婦人の顔を見上げ、ゆっくり瞬きをした。
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