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「お前、気がついたか?あの猫」
先輩が次の現場に行く道中で僕に聞いてきた。
「え?あの猫ですか?」
「ああ。あの猫は、多分あの老婦人の旦那だった奴だな」
「え?旦那さん?どういう意味ですか?」
「滅多にない事だが、たまにいるんだよ。伴侶になった魂が天寿を全うして、それでもどうしてもそばに居たいと、動物として転生してる時がな。ほら、年の差がある夫婦だとそうなるだろ?男の方が20歳も上とかだと一緒に生きられる時間にどうしても限りがあるからな。
勿論、どの魂でもできることではないんだが、徳を積んだ魂なら短い期間だけ特例としてそれができる。まあ猫だと寿命は長くて15年ってところだろ?魂の時間にしては短い期間だから、特別にそれを許されてる魂がいるんだよ。まあ本当の”魂の伴侶”に限るがな」
そんな事があるのか・・・。
「だからあの猫もあの老婦人が死ぬと、暫くしたら死ぬよ。なんせ老婦人の為にいる猫だからな」
先輩はそう言いながら嬉しそうな顔をしている。
僕は半信半疑でその話を聞いた。
先輩はこうも教えてくれた。
魂の伴侶とは、3回この世で伴侶になった魂のことを言うのだそうだ。
転生を繰り返す中で、この世に生を受けている間に伴侶になった相手が同じ魂だった場合、それが3回とも同じ魂だった場合、魂の伴侶になれるのだそうだ。
勿論転生する時には前世の記憶などないし、同じ時代の同じ国に生まれるなんてことは分からない。しかも結婚適齢期として同じ時代を生きていなければ伴侶にはなれない。だから、違う伴侶と一緒になることの方が多い。違う伴侶と一緒になるのも悪くはない。それはそれで色んな魂と触れ合えるのだから。
だが、3回伴侶になれたらそれは魂が決めた伴侶で新しいステージへ行くのだそうだ。
それはとても幸せな事なのだそうだ。
僕ら道先案内人もどこかのステージの仕事として与えられていることらしいのだが、それは僕ら当人にはわからないことで、所謂神様と呼ばれる存在のみが知っているのだそうだ。
先輩はもう少しでこの仕事を終えるらしいから、こんなことを知っているのだと言う。
なるほど・・・奥が深い。
確かに僕は気がついたらこの仕事のレッスンを受けていた。その前の記憶はない。
そういう事かと納得した。
3時間後、僕は一人で老婦人を迎えに行った。
老婦人は夕飯を家族と食べ、猫にも刺身を分けてやり、猫と共に寝間にいた。
ベッドに横向きに寝て、その胸元で猫も寛いでいる。
猫は老婦人に撫でられながら気持ちよさそうにしている。
「ああ、約束の時間がきたのね・・・逝きましょうか」
老婦人は僕に気がついてゆっくり仰向けに横たわり目を閉じた。
「ええ。お迎えにあがりました」
僕がそう告げると、猫が一声小さくニャーと鳴いた。
次の日の朝、あの老婦人のベッドには猫は居なかった。
その老婦人の初七日の日。
明け方に仏間に線香をあげにきた老婦人の息子は驚いた。
今まで一週間姿を消していた猫が、仏壇の前の座布団の上で丸くなって冷たくなっていた。
仏間にはあの老婦人の遺影とその横には旦那さんであろう老人の遺影が並んでいる。
猫はその遺影を仰ぎ見るような姿で亡くなっていた。
先輩が猫の体に入っていた魂を抱えて天界に上がってくる。
その様子を僕は天界から眺めていた。
先輩があの話をしている時に嬉しそうだった理由がわかった。
3度目の伴侶。
魂の伴侶。
やはりあの猫はそうだったのだ。
終わり
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