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10 Mの想い その1
今年の正月。
高校卒業と同時に大阪に出て行った幼馴染の元彼女からメールが届いた。
今年の正月は帰ってこないとおばさんに聞いていたから、メールが来た事が少し嬉しかった。
今でも思い出してこうやって連絡をたまにくれる。
メールには春に島に帰ると書いてある。
それは一時の帰省という意味なのかと聞いてみたら、そのまま大阪を引き上げて島に帰ってくるという。
内心、『この時が遂に来た』と思った。
彼女との出会いは6歳の時。この島に引っ越してきた。
彼女の母親はこの島出身で、父親は大阪の人だった。彼女の父親が体調を崩し、ならば空気の良い田舎に引っ越し、子育てをしようという事で島に戻ってきたのだと。
同じ歳の女の子が大阪から島にきて、同じ学年で入学してくると聞かされた時、子供心にワクワクした。どんな子が来るのだろうと・・・。
入学式の日、初めて彼女をみた時になんて可愛い子だと思った。
皆、真新しい同じ制服を着ていたが、彼女の履いている靴下が少し違い、それがとても可愛かった。
この時俺は、彼女に一目惚れをしたのだと思う。
島の子供とは雰囲気も少し違って、大人しく、話す言葉も大阪弁だった。
着ている服や持っている物も全然違うものに見えた。
俺ら島で生まれ育った子供は、生まれた時から一緒に育っている様なもので、3歳からは幼稚園に入るが、子供が少ないのだから小学校に入学と言っても幼稚園の延長で転校生の様な存在だった。
だから彼女の存在はとても浮いていた。
最初、彼女は少し虐められた。
大阪弁を話す事と、持っているランドセルが一人だけデザインが違ったからだった。
彼女には5歳上に兄がいた。
それを知って最初の頃は休み時間になる度に、妹のクラスまで様子を見に来ていた。
ある時、この兄とその父親が家の前の浜で散歩している時にばったり会った事があった。
彼女の父親は肺に疾患があった様だったが、調子がいい時はこうやって浜を散歩していた。
いつもは彼女も一緒に散歩していたが、この日は彼女は一緒じゃなかった。
家の前の、浜との境の堤防で弟と遊んでいる時に話しかけられた。
「うちの子と同じ学年の子だね?こんにちは」
「うん。今日は一緒に散歩してないの?」
「今日はね・・・家がいいんだって。お母さんの手伝いをするって」
少し寂しそうな顔で言われた。
「ふ〜ん」
「色々島の生活にまだ慣れないみたいだから、仲良くしてやってね」
おじさんはそう言うと俺の頭を優しく撫でてくれた。
その日の夜、俺は親父に聞かれた。
「大阪から来たお前の同級生、学校でいじめられてる様だって話を聞いたが、まさかお前、虐めたりしてないだろうな?」
突然親父にそう詰め寄られて怖かったのを覚えている。
「いじめて・・ない・・・」
「本当だろうな??もしお前がイジメをしていたら、一晩納屋で寝てもらうぞ!虐められてたら、助けてやるんだぞ!わかったか?お前は男の子だから、守ってやれよ!」
漁師の親父にそう言われて、本当に怖かった。
「明日から、学校行く時一緒に行こうって誘ってやれ。大阪から来て、友達もいなくて寂しいだろ?お前男の子だから守ってやれよ」
親父にそう決められ、次の日から俺は彼女を誘って学校に行く事になった。
毎朝一緒に登校するのは少し照れ臭かった。
だが、これが俺と彼女が仲良くなるきっかけだった。
守ってやりたい・・強くなりたい・・・そう思って親父に剣道を習わしてもらいたいとお願いしたのもこの時期だった。
イジメも次第になくなり、彼女の兄も休み時間毎にクラスを覗きに来る事も無くなった。俺は彼女と一緒に登下校をそのまま続け、結局中学に上がってもそれは続いた。
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