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11 Mの想い その2
中学に上がった頃、誰が言い出しだのかは忘れたが、クラスで誰が好きかという話になった。
思春期に差し掛かっていた俺は既に彼女のことが好きだった。厳密に言うとずっと好きだった。
ただでさえ生徒数が少ない上に、変に噂をされてまたイジメの対象になる位ならと思って中学一年の時に思い切って彼女に告白をした。
彼女は嬉しいと言って恋人になってくれた。
クラスの皆も俺と彼女が付き合いだした事をなんとなく知って、そのうち、同じ中学内で次々とカップルが出来ていった。中学生の付き合うは、今となっては可愛いものだが、俺は真剣だった。その上、特別イジられたりする事もなく幸せな日々だった。
14歳になる年。俺らの村では昔の成人式にあたる元服と裳着の『立志式』があった。
特別何をするわけではないが、中二の学校の授業参観の時に、どんな大人になるのか親と全校生徒の前で『志』を発表するのだ。
この時に10年後の自分と20年後の自分に向けて手紙を書いた。初めて未来の自分を具体的に想像した。
10年後・・・24歳か・・親父の跡をついで漁師になってるかな・・・。
20年後・・・あいつと結婚して子供がいるかな・・・。
漠然とそう思った。そしてそれを手紙に書いた。未来の俺は思ったようになっていますか?と。
高校に進学しても俺と彼女は付き合っていた。
高校は島の全土から生徒が集まる。だから同級生の数は一気に増えて交友関係は広がった。でも俺達の関係は変わらなかった。
同じ高校に進んだがクラスだけは別になった。彼女は頭が良かったからトップクラスと呼ばれるクラス。俺は普通クラスで剣道に明け暮れた。毎日同じバスに乗って学校に行き、同じバスで帰ってきた。
17歳の時、俺は原付バイクの免許を取ったから通学はバラバラになった。だが毎日昼飯は一緒に食べた。たまに彼女がお弁当を作ってきてくれてた。嬉しかった。1日会えなかった日には、夜、あの浜でもこっそり会ってキスしてた。
高校3年の夏、具体的に進路を決めねばならない時期が来ていた。
彼女の父親は彼女が15歳の時に亡くなっていた。
だから都会へ進学する事に躊躇している様だった。
この夏に、既に島外の大学に進学して就職していた彼女の5歳上の兄が帰省してきた。
俺はたまに家の前の海水浴場で期間限定のアルバイトをしていて、その海水浴場に自分の彼女を連れて来ていた。その時に話をした事を覚えている。
「妹は自分が都会に進学して母親が一人になる事、自分の進学に金がかかる事、お前と離れることが気になっているようだよ。でもお袋は若いうちは外に出て色々経験して来い!って言ってるし、金なら俺が多少援助してやれる。俺だって働きだしたからな。あとはお前と離れる事がネックだな。お前は将来どうするんだ?」
そう聞かれて、自分との関係までネックになっていると初めて知った。
確かに島外の大学に進学してしまっては今までの様に頻繁に会うことはできなくなる。だが自分のせいで彼女のしたい事まで奪ってしまうなんて考えられなかった。
俺は彼女に進学を勧めた。俺は島で仕事して待つと。
俺は漁師になることを決め、親父にもそれを言った。親父は喜んでくれたが、舐めた仕事をしたら命を落とす事もある。だから漁師になるなら根性決めろと言われた。
実際に漁師はきつい仕事だった。
高校を卒業して、彼女が大阪へ旅立つ日。
俺も空港まで見送りに行った。
遠距離恋愛で関係は続けると話し合って、お互いに納得した旅立ちだった。
鞄一つで飛行機に乗っていった彼女を誇らしく見送った事を覚えている。
俺も負けないくらい早く一人前の漁師になろうと決意をした。
半年間、正直仕事に慣れるのに必死だった。朝は早いし仕事はキツい。親父は毎日俺に怒る。その日その日をこなす事で精一杯だった。
そして少しずつすれ違っていった。
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