12 Mの想い その3

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12 Mの想い その3

初めて彼女が大阪から帰省した夏休み。 大学は9月の真ん中まで休みだと言うのでお盆と時期をずらして8月末に彼女が帰って来た。 久しぶりの再会が嬉しかった。 彼女が10日間島にいる間、5回会った。 離れていたのを埋める様に、二人でこっそり愛し合った。 色んな話もした。 大阪での暮らしに大学の事。アルバイトの事。 そして二人とも気が付いてしまった。 『今は別れた方が良い』 お互いに子供の時とは違う新しいステージに立っている事に気が付いたから。 彼女はまだまだやりたい事が沢山ある様だし、夢に向かって頑張っている。俺は俺でこの10日間の間に気を抜くなと親父に怒られる回数が増えている。 今は別れても、俺達ならいつかその時が来て、また一緒に過ごせる時が来ると思えた。 だから彼女が大阪に戻るその前の日、新月の夜に俺は別れを切り出した。 彼女も納得した様だった。 別れてからの俺は漁について勉強をした。 俺の家は遠洋漁業には出ない。 だが、父は若い頃に修行の為に遠洋漁業に行っていた事があると言っていた。 俺も挑戦したかった。 結果、2年遠洋漁業に行った。金はまあまあな額が稼げた。外国の港にも行った。きつい仕事だったが良い経験になった。 24歳の正月、あの立志式の日に書いた手紙が届いた。当時の担任が10年後のその年に送ってくれた様だった。開けてみる。俺は当時考えていた通り漁師になっていた。 1・2年に一度くらい彼女は島に帰って来た。 同窓会を兼ねて会ったりした。だが二人っきりに、なるだけならない様にした。 二人きりになってしまえば抱きしめたくなる。それ以上の事もしたくなる。だから我慢した。 本当に辛くなった時は電話をした。電話で声が聞けたら仕事も頑張れたし、自分を鼓舞する事もできた。 そして彼女はどんどん綺麗になっていって、大阪で彼氏もできた様だった。 それを知った時にはショックだったが、仕方のない事だった。俺は島を離れられない。 俺も彼女を作ってみたりした。 だが、毎回うまくいかなかった。 結婚の二文字が出てくると、避けてしまっていた。 避ける理由は・・・・お察しの通りだ。 30歳になった時、俺の弟が結婚した。 弟は島外の水産系の大学に行き、その後帰ってきて一緒に漁師をしている。その弟が出来ちゃった結婚をした。 これで俺の長男としての荷が少し降りた。 とりあえず親父には初孫ができた。 しかも男の子だった。 この時、弟に言われた。 「兄貴!俺が初孫見せてやったし跡継ぎはどうにかなるだろうし、兄貴は兄貴で人生考えたら良いよ。まだ好きなんだろ?」 弟には見抜かれていた。 それはそうかも知れない。弟は俺と彼女の全てを一番近くで知っている。高校生カップル特有の思春期のには弟が味方になって助け舟を出してくれていた。 ”兄貴、今日帰りが遅いって親父キレそうになってるから言い訳考えといた方がいいよ”だとか”今日親父、飲みに出るから夕方から家いないよ”とか連絡くれていた。 だから弟の一言で少し楽になった。 あと10年。40歳になるまでは彼女の事を待ってみようと決めた。今でも彼女はたまにメールをくれる。嫌われてはいない。幸い彼女にも男はいなそうだった。 それは噂好きな同級生から聞いていた。気長に待っても良いと思えた。 去年、34歳になる年の正月にまたあの立志式の手紙が届いた。 今はまだそこに書かれている通りにはなっていない。 だが俺はまだそれを諦めていない。 そして今年、彼女が島に帰って来た。 島でも仕事が出来る様にして帰ってきた。 空港まで迎えに行って、久しぶりに再会した。 やっぱり彼女は素敵だった。 俺の胸は高鳴った。 意を決してもう一度告白もした。 次の新月の夜、俺の元へ戻ってきてくれる事を切に願う。 そして二人で一緒になれたら・・・
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