上弦の月 part2

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上弦の月 part2

5月下旬。 私とM君は大阪に来ていた。 二人で結婚指輪を買おうと言っていたM君の希望で大阪に来たのだ。 島に宝石店がない訳ではなかったが、いい機会だから大阪で、という事になったのだ。 恐らく、島にいてはなかなか二人っきりになる事ができないし、私が住んでいた街を見てみたかったのだろう。 (生活のリズムが微妙に違う上に、村の人がひっきりなしに顔を見にくる。有難いのだが、たまにはイチャイチャしたいのがM君の本音だろう・・・かわいいやつ・・・) ちょうど、私も大阪にいる仕事の取引先に挨拶もしたかった。だから5泊の予定で大阪へ来た。 まず関西空港に降り立って、ホテルへチェックインする。 梅田のど真ん中にあるヒルトンホテルにした。 ここだと、取引先に行くのも便利だし空港からのリムジンバスもアクセスが良い。 私はミナミと呼ばれるエリアより、梅田の方が詳しい。 だからそうした。 初日はホテルに荷物を置いて、私が最初に住んだ街へ行く。 阪急電車に乗って、懐かしの街へ。 昔住んでいたマンションの周りを案内し、通った学校へも案内した。 M君はひっきりなしに、 「お前、ほんと一人で頑張ってたんだよな・・・偉いな・・・」 と言っている。まるで当時の私を想像しているかの様だった。 二日目は結婚指輪を見に。有名ブランドのものでも良かったが、私もM君もブランドに興味がない。だから大阪でも老舗の宝石店へ行く事にした。 この宝石店は私の両親も世話になった店で、その話を私は母にこの前聞かされた。 母がこの前私にルビーの指輪をくれたのだ。父が結婚を申し込む時に持って来たものだそうだ。その指輪を父はこの宝石店で買い、母に贈った。肺を病んで既に亡くなっている父が青春時代に母に送った代物。それを聞いて、M君にこの宝石店で結婚指輪を買うことを提案したのだ。 M君は快く、その話にのってくれた。 二人で店内に入る。名前を名乗ると、店主が接客してくれた。 実は島を出る時に、母がこの宝石店へ電話をしてくれていたのだ。 ルビーの指輪のサイズのお直しも同時にお願いする為に。 「このルビーの指輪、覚えていますよ。良い品ですよ。あなたのお父様は何度もここに足を運んで、贈る指輪を吟味されてましたからね。購入される時に大事そうに持って帰られた姿も覚えていますよ。若いのにしっかりスーツを着込んで、今からこれを持って彼女にプロポーズすると仰ってましたから。懐かしいですね。その指輪が娘さんに渡る・・・いやー、久しぶりに嬉しい話です」 そう店主は言いながら私の指のサイズを測り、お直しのオーダー表をまとめていった。 「今日は結婚指輪もお探しだと伺っておりますが、どの様なものにしますか?」 店主が優しい口調で聞いてくる。 「シンプルなもので」 M君が緊張しながら答える。 店主が幾つか出してくれた。 その中でも一番シンプルで、私のには小さなダイヤが埋め込まれている物を私達は選んだ。二人のサイズを測り、そのサイズの物をはめてみる。私達にはそれが一番似合っていると思った。 ルビーの指輪を預け、それは郵送してもらう。 結婚指輪はそのまま受け取って持ち帰る事にした。 その日の夜は私の取引先の方と食事を取った。 取引先・・・と言っても、彼女とは友人のような関係で、もう付き合いが長い。 だからM君も一緒にという事になった。 先方は彼女とその上司(実はこの二人も近々結婚する)と来ていて、こちらも二人。四人での食事だった。 M君は、私の仕事の相手から色んな私の話が聞けて、満足している様だった。彼の知らない私がそこにはいるだろうから、面白かったのだろう。 残りの日は大阪観光をした。 二人で手を繋いでデートして、イチャイチャしながらたっぷり二人の時間を楽しんだ。 大阪名物のお好み焼きも、串カツも、通天閣にも登って、コテコテの大阪を満喫した。 私がずっと通っていたお好み焼き屋さんに連れて行った時には、店主にコテコテの大阪弁とノリツッコミの洗礼を受けて、M君は戸惑っていた。(お馴染みの私は見ていて面白かったけどね) 大阪滞在最後の二日間。私達は殆どホテルの部屋で過ごした。 実は最後の二日間はホテルもヒルトンから梅田の茶屋町にある夜景の綺麗に見えるホテルに変えていた。 最初、何故ホテルを変えたのか分からなかったが、このホテルのお風呂を見た時に理由はわかった。バスタブに浸かると窓から大阪の夜景が綺麗に見えるのだ。しかもバスタブは大きく、大人二人が一緒に入っても十分な広さだった。 M君は用意周到で、お風呂にキャンドルまで用意してくれている。 自身ではロマンチックな男だと自覚ない様だったが、相当ロマンチックな様だ。 滞在最後の夜にはルームサービスを頼んだ様で、軽食とフルーツの盛り合わせとシャンパンが部屋に運ばれて来た。 綺麗なレストランもいいけれど、二人っきりで過ごしたいから部屋で・・・とM君の要望だった。 それを待って、M君は私を膝に乗せて優しくキスをしてくれた。 「お前とこんな風に過ごせるのをずっと待ってたから、二人っきりで過ごせるこの旅行は楽しみにしてた。お前が17年間大阪で頑張ってきたのも見れて、なんだか誇らしかった。しかもそんな女が俺の嫁になってくれるなんて、幸せだな・・・ありがとうな」 真っ直ぐに私の目を見て言うものだから、恥ずかしくなった。 「私もM君のお嫁さんになりたいって子供の時から思ってた。そして本当にお嫁さんになれるなんて、幸せだよ。ありがとう」 その言葉を聞いてM君は少し照れたようで、また私を抱きしめてくれる。 二人で大きな湯船に浸かる。 窓の外はキラキラした大阪の夜景が見える。 「結局、お前の操、俺のものになったな」 ふと耳元でそう囁くものだから、可笑しくって笑ってしまう。 「そうね。結局あなたのものになりました。だからずっと愛してね」 「うん。ずっと愛してる」 「私も愛してる」 そのまま大阪最後の夜は更けて、私達は何度も一つになった。 翌年の春。 私は元気な女の子を出産した。 まだまだ私達の幸せは続いていく事だろう。そう願ってやまない。 あの小さな浜を、月明かりの中、子供を抱いてM君と散歩する。 空を見上げると、上弦の月が光っていた。 終わり
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