5 小さな浜

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5 小さな浜

翌日の19時。約束の時間に、あのいつもの場所に来た。 そこは私の家から海に向かって歩いて5分ほどの小さな浜で、M君の家からも歩いて5分の場所にある。この小さな浜の隣にはさほど大きく無いが地元で有名な海水浴場がある。子供の時にはよくこの浜で遊んだ。そしてその海水浴場の一番奥の端に、小さな漁港がある。そこにM君の実家はある。 M君は先に来ていた。 日はすっかり落ちて街灯すら殆ど無い浜は暗かった。まだ月は昇っておらず、20時まで開いている近所の商店の明かりで辛うじて人影が見える。M君の逞しい体はシルエットだけでその人だとわかった。 「待ってた・・・来てくれてありがとう」 顔はまだはっきり見えないが、声の感じで神妙な面持ちで言っている事がわかる。 近づくと優しく手を取り、砂に足を取られそうになる私をエスコートしてくれた。すぐそばの堤防の階段に二人並んで座った。潮騒が耳に心地良い。 「覚えてくれてたんだ。この場所」 「うん。だってここ、中学からM君とデートしてた場所だったし」 「そうだな。当時はお金もないからよくこの浜のこの一番端っこの堤防でこっそり会ってたな」 「うん。休みの日には夕方こっそり家を抜け出して。高校の時は夜もよくここで喋ってた」 「そうそう。お互いの家からちょうど真ん中。地元の人しかこの小さな浜には来ないから」 「こっそり家を抜け出してたのがバレて、すっごく怒られた時もあったね。でも会うならちゃんと言って行きなさいって言われて、それからは帰りにM君いつも送ってくれてた」 「そうだったな。青春してたな」 「ふふふ。そうだね。青春してた」 当時の私達はよくこの小さな砂浜で会っていた。 お互い子供の時から一緒に育ったようなものだからお互いの親もよく知っている。だから片方の親にバレればすぐにもう片方の親に筒抜けだった。 だが、お互いの親も黙認してくれていた。 いつも私の母は心配していた様ではあったが。 中学に上がった頃から口癖のように ”男の子は狼になる事があるから気をつけるのよ。いくらM君でも気をつけなさい” そう言っていた。 でも二人で会うことを黙認してくれていた。 M君はうちの母親に牽制されてはいた様だったが。 「俺ら若かったな。もう20年も前だな。ここで会ってたのは」 懐かしそうにM君が言う。 「そうだね。気がつけば私達も今年で35歳。中年になっちゃったね」 「中年・・・そうだな。でもお前はあんまり変わってないな」 「え?そう?しっかり年は同じだけ取ったよ」 「ははは。そうだな、俺ら同級生だから同じ年だな」 「そうだよ。M君も変わらない。確実に私と同じ歳だけ取ってるはずだけどね」 「そうだな・・・」 暫くの沈黙が流れた。 今日のM君はなんだか少し緊張している様子で軽口を叩ける雰囲気ではなかった。
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