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7 母の心情
自宅に帰ると母が今日も夕飯を用意してくれていた。
一品は私が作って家を出たのだが、それに追加して母がもう一品作っていた。
「あんた、M君とまた会ってたの?あんた達ほんと子供の時から仲良いわね」
母親が夕飯を食べながらそんな会話を振ってくる。
「え?まあ幼馴染だから・・・」
「あんた、もうM君にお嫁にもらってもらいなさいよ。彼氏もいないんでしょ?M君も独身だし。あーでもあんたに漁師の嫁が務まるかが問題だわねー。基本的に朝が早いからあんたみたいな都会暮らししてた人間には難しいかもしれないわねー」
「お母さん、話が勝手に進んでるんだけど・・・」
「え?だってM君あんたの事好きでしょ?あんたが都会に出てからそりゃ何人か彼女らしい子を連れて歩いてるのを見た事はあったけど、結局独身なんだし。M君のお母さんも心配してたから。嫁もらえって言ってもあの子にはその声が届かないって。もう心に決めた子でもいるんじゃないかって。でもあんたなら丁度いいかもしれないわねー。あんた達仲良いんだから。もうM君に操あげなさいな」
「お母さん。操って!!」
「ハハハハ。もうそんな照れる様な歳でも無いでしょうに。35歳のおばさんになるんだから。早く嫁に行かないと子供も産めなくなるわよ。お母さんがあんたを産んだのが今のあんたの歳なんだから、その年の出産も子育ても、大変さはよーく知ってるから言ってるのよ。あんたも真面目に考えなさいよ」
久しぶりに母親に現実を突きつけられた。
確かにその通りだ。
母は私を35歳で産んでいるが、私の上に5歳上の兄がいる。だから私は二人目の子供で子育てに慣れている状態だっただろうに、それでも高齢出産はしんどいと口癖のように言っていた。
実際、父親が亡くなってからの母は、特に私の事を気にしている。
このまま独身でいたら将来寂しくなると口癖の様に言っていた。
その日の夜、お風呂に浸かりながらM君が言ってくれた事、母の言っている事を考えていた。
確かにM君はまだ私の事を好きだと言ってくれる。
私も勿論嫌いではない。だが、この年でよりを戻すと言う事はその先の結婚の事まで考えていてくれてるのだろうか?
それとも単純によりを戻したいだけなのか?
考えれば考えるほどわからなくなってきた。
素直に"好きだから付き合う"
そんな青春時代の恋愛感情だけで突っ走れる歳ではなくなってしまっている。
母に言われた通り、地元に帰ってきたのなら、ここで嫁に行き暮らすのが良いのかもしれない。
でも私には私の仕事もある。
田舎に帰ったからと言って、仕事を辞めてきたわけではない。
まだ取引先は東京と大阪にあるし、二ヶ月に一度は恐らく行かねばならない。
そんな生活を許してくれるのだろうか?
考えてもわからない事だらけになってしまった。
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