8 懐かしの縁側

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8 懐かしの縁側

2日後、私が大阪から送った荷物が船便で港に届いたと連絡があった。 飛行機便だと早いが料金がそれなりにする。 大阪で使っていた家電一式は殆ど売ったり処分したりしていたが、どうしても洋服や仕事で使う資料などの本は送らねばならなかった。だから時間はかかるが安い船便にしたのだ。 まだ私の購入したワンボックスカーは納車されていない。母親の軽自動車では荷物が乗り切らない。そんな理由でM君に助けてほしいとのメールを打った。 彼の家は軽トラも所有している。 その日の夕方、その軽トラで一緒に荷物を港に取りにいってくれる事になった。 「結構荷物あるんだな。あとはこの3箱で終わり?」 港のガレージの様なところで荷物を荷台に乗せていく。 「うん。その3箱で終わり」 受領証にサインをする。 軽トラの荷台はいっぱいになった。ホロを被せて実家へと向かう。 「なんか、こうやって荷物まで見ると、ほんとに大阪で暮らしてたんだなって思うもんだな。お前がこの島を出ていく時はカバン一つだったのにな」 「そうだね。出ていく時も見送ってくれたよね。18歳で出た時には旅行カバン一つに洋服詰めてそれだけで出て行ったからね。他は全て大阪で買って揃えて。なんだか荷物見てると17年って年月感じるよね」 「お前、頑張ってたんだな」 「ん?まあ、それなりに・・・。頑張ったかな・・・」 「俺、お前の事すごいと思うよ。大阪の大学に行って、就職して、自分で仕事して。頭いい女だって思ってたけど、頭だけじゃなくって根性もあるし。俺、お前には負けない様にってずっと思ってた」 「ええ??私に負けない様にって・・。M君の方がすごいじゃない。スポーツもできて、お父さんの跡継いで漁師さんなって。私にはできない事だよ」 「ははは。そこだけならそうかもな。でも俺はお前の事尊敬してるし、良い女だってずっと思ってるから。現に頭も良いから大学行けてるし。俺なんか学校の勉強は数学と体育以外は全くだったしな。英語なんかもうすっかり忘れた」 「懐かし。確かに英語は苦労してたね。私が高校生の時、洋楽聞いてたら何言ってるのかわかんないから楽しさがわからないってずっと言ってたもんね」 「懐かしいな・・・」 そっか。 M君は私の事そういうふうに見てくれてたんだ。 それが知れて嬉しかった。 実家に着いて、荷物を軽トラの荷台から下ろす。 とりあえずは実家の私の部屋の縁側に置いてもらう。 まだ私自身の部屋もちゃんとできていない。とりあえずの寝床を確保しているだけで余った和室を仕事部屋に改造する予定だ。まだ仕事机すら買っていない。 「あら〜、M君悪いわね〜。よかったらお茶でも飲んで行きなさいな」 母が奥から出てきてそう声を掛けた。 「おばさん、お久しぶりです。はい。お茶いただきます。後少しこれを全部縁側に入れたら」 「まあ、適当に置いといたらいいよ。あとはあの子が片付けるだろうから」 「はい。重たいものだけでも運んでおきますよ」 「悪いね〜」 母はいそいそとお茶を用意しにキッチンへ向かう。 私の実家は築70年は経っている日本家屋だが10年ほど前にリフォームをしてだいぶ現代の機器が増えた。 玄関は昔、土間だったし、水回りも古かった。そこらへんのリフォームと母の居室がすっかり現代のものになっている。 私の部屋は縁側に面した和室で、その横の和室が今は使われていない。 昔はよくこの縁側でM君と話もした。 学校を休んだりすると宿題を持ってきてくれたりしたから。 「お前の部屋に入るのも懐かしいな。俺、この4日ぐらい懐かしいって言葉しか言ってない気がするよ」 「確かにそうかもね。だって私も懐かしいし、二人でこんなに頻繁に会うのだって、話すのだって18歳の時以来なんだもん。そりゃ懐かしいよ」 「この重たい箱。これはこっちの和室に置いとこうか?こっちを仕事部屋にするんだろ?」 「あ、うん。ありがとう。助かる。その箱とあの二つの箱は書類と本だからこっちがありがたい。あーこれを入れる本棚と仕事机と椅子も買いに行かなきゃ」 「家で仕事ってなんだかカッコいいな・・」 「え?そう?本当は家じゃ無い方がいいんだけど、この辺そんな都合の良い物件ないでしょ?だからねー。家に仕事場があると、怠けちゃうし、自分との戦いよ」 「ハハハ。確かにそうだな。寝室の横に仕事部屋って辛いかもな」 「でしょ?まあこの辺りは静かだから集中できるかも知れないけど」 「確かに・・・。そういやお前、その本棚とか買いに行くのは車いいのか?軽自動車じゃ乗らないと思うけど」 「あ・・・そっか。まだ私の乗用車も来ないんだ・・・」 「いつ行きたいんだ?俺が軽トラ出してやるよ」 「ホント?いつも頼ってごめんね。でもすっごく助かる!!M君の都合がいい時でいいよ。漁に出て帰ってきて体力が残ってる時で」 「体力はまだある。いつでも大丈夫だぞ」 真面目な顔でそう答えるから笑えた。 私が笑うのを見てM君も笑う。 本当に高校生に戻ったような気分だった。 「ホントに私はいつでもいいから、M君の都合で。連絡ちょうだい」 そう決めたところで母がお茶にしろと声を掛けてきた。 二人縁側でお茶を飲んだ。 懐かしい味だった。
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