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1 帰郷
”久しぶり元気?私、この春に田舎に帰ることにしたよ。当面は実家に戻って母と暮らすことにした。もし時間があれば、会いましょう”
”久しぶり。帰ってくるんだ。それは一時の帰省?その後また大阪に戻る?それともずっとこっちにいるのか?”
”もう都会の暮らしはいいかな。だからそのまま田舎で暮らす予定”
”そうか。わかった。また帰ってくる日がわかったら教えてくれ。実家に顔を出すから”
正月、田舎に帰省しなかった私は、幼馴染のM君に1年ぶりにメールをした。
M君は6歳の時から知っている数少ない幼馴染で、今も田舎の島に住んでいる。彼は親の跡を継いで漁師をしていて、今では年に一度帰省する時に会える数少ない友人だ。
過疎が進んだ南の島には私の同級生は10人しかいなかった。
だからそもそも幼馴染自体少ない。その上他の同級生は殆どが島外に出てしまっていた。
そして、M君は私の初恋の人で、初めての彼氏だった。
私は18歳の春に高校を卒業して大阪の大学に進学した。
島には大学がなかったから、当時の私は迷った。
迷った理由の一つは彼氏のM君と離れるのが嫌だった事だ。
M君は親の跡を継ぐ事を決めていたし、私が島を出れば必然的に遠距離恋愛になる事はわかっていた。
その状況で進学に迷う私の背中を押したのは、M君だった。
”お前は頭が良いから大学に行け。俺は島で俺の仕事をしながら待ってるから”
そう約束した。
M君とは半年間遠距離恋愛をしたが結局続かなかった。
当時は携帯電話の料金も今より高かったし長文メールはPCのメールでしかできなかった。漁師の彼と学生の私では生活のリズムも違う。二人の時間はすれ違っていった。そして、初めての夏休みに帰省した時に別れることになった。
私は大学を卒業した後も大阪に残った。
海しかないその島に私がしたい仕事はなかったからだ。
大学卒業後は年に一度、正月かお盆に帰省する時に地元に残った友人と皆で集まって会うだけになっていた。二人きりで会うのはお互いになんとなく避けていた。28歳を超えたあたりから地元の同級生ともなかなか集まれなくなり、M君と会うのも2年に一度会えれば良い程度になっていた。
3月末日、大阪から島に帰る時、空港からM君にメールで連絡をする。
”今から帰ります。今関西空港”
M君から返事が返ってきた。
”今日帰ってくるのか。空港まで迎えに行こうか?”
相変わらず優しい男だ。
”来れる?私、そっちに着くのは夕方になるけど”
”大丈夫。夕方の便なら17時過ぎのやつだよな。空港で待ってる”
島に着く飛行機は数が少ない。しかも直行便は週に一度の成田発の1便しかない。だから関空発の夕方便となると鹿児島空港で乗り継ぎ・・・といえば、それしかないのだ。
”ありがとう。じゃあ後で。”
そのまま母親にも電話をする。
「あ、もしもし、お母さん?今空港。島の空港までM君が迎えにきてくれるって言ってるから、お母さん、迎えに来なくて大丈夫だよ」
「あら、そうなの?わかった。じゃあ家で待ってるわね。気をつけて」
「うん。また後で」
母親もまあまあな歳になった。
私を35歳で産んでいる母は、もう70歳になった。
私がちょうどその母の年になるのだから、そうなる。
その母親はまだ車の運転はするが、なるだけ車で遠出をさせたくない。
実家から空港までは車で約1時間弱かかる。
だからM君の申し出はありがたかった。
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