勇者の足あと

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勇者の足あと

「勇者様の足あとですか」 「そう、いい観光名所になると思わない?」 私の問いに、好々爺然とした顔で村長は答えた。 低い柵で囲われた地面には、はっきりと足跡が残されていた。 「すぐ風化しませんか?」 「どうにかしてうまく固めるよ」 私の意見など聞く気もない様子にこっそりとため息を吐く。 「分かりました。ところで、壊れた施設の整備案を承認いただきたいのですが...」 「そんなことは後にしてくれ。私は忙しいんだ。明日は隣の村の祭りに出席するのでね」 村の役所に戻ると皆が忙しなく働いていて、足あとを見に行く前に片付けた私の机にも書類が積み上がっていた。多くは壊れた建物や被害を受けた人々からの嘆願書だ。 この国では数十年に一度、魔王と呼ばれる強力な力を持つ魔物が現れる。普段はそれぞれ生活している魔物達が魔王をトップに集団となり、人間と領地争いをするということが繰り返されている。 その魔王と主要な魔物達を、これまた数十年に一度現れる勇者が討伐したのが2ヶ月ほど前。 魔王に悩まされていた村々ではまだお祝いムードが続いており、皆が浮き足立っていた。 ”至急”と書かれた書類、その内容に目を疑う。 「また祭りですか?もう3度目ですよ」 「こっちはまた勇者一行の像の建築だ。一体何箇所に置くつもりなんだ」 勇者一行の働きは素晴らしく、数年間にわたり人々を苦しめた魔王軍を数ヶ月で見事に倒してみせた。眉目秀麗な勇者一行は人々を心酔させた。各地に像が建てられ、祭りが開かれ続けている。 「ところで、もう飛行石試した?」 像の建設資料を置いて、同僚が口を開く。 「私はまだですが、村長は使用していました。安定して浮いていましたよ」 「そうか、俺もまだなんだよな。この書類の山のせいで」 「もう使用してない人の方が少ないくらいですね」 今回、勇者一行が魔王を倒して得た宝物の一つが飛行石のレシピだ。そのレシピから勇者一行の魔道士が飛行石を再現した。安価な材料で作成可能らしい。 飛行石を使えば安定して簡単に飛ぶことができる。魔力消費も少なく、歩くよりも体力を使わないので大人気となり、今では多くの人が飛んで移動していた。 「そういえば次の祭り、勇者御一行は出席予定なのですか?」 書類には勇者一行のことが全く記載されていない。 「ああ、来てくれるらしいが、勇者だけは出席しないみたいだ。勇者は既に与えられた屋敷にこもって、今回の戦いや魔王軍について書き残しているらしいぞ」 同僚が資料の山を整理しながら答える。手渡された勇者一行の最近の動向を記載した書類には、飛行石を利用して浮かぶ勇者一行が写っていたが、勇者だけは大地を踏み締めて立っていた。
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