陛下

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初めて会うその人は、背が高く細身で、短い黒髪に鋭い黒い瞳を持つ精悍な感じで、兵士に混じっていたら皇帝というより指揮官クラスの兵士にみえる若い方だった。 どことなくエドに似ていると思うが、あまり男性と顔を合わせる事がなかったアナスタシアには、帝国人の顔立ちの区別がつきにくいだけかもしれない。 初めて近くで会えたリリーとレインも頰を赤らめてキャーキャー言っている。 皇帝陛下に椅子を勧めて一緒にお茶を飲みながら話すことにした。 「アナスタシア、手紙をもらった。話したいと言うから来てみたが、まずかったか?」 「いいえ。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。クレア王国より参りました。アナスタシアでございます。陛下の花の一輪として咲き続けたい所存でございます。」 「私は月光の乙女の噂を聞いてから一度会ってみたいと思っていたのだ。会えばどうしても自分のものにしたかった。だからアナスタシアの意向を聞かず花を贈ってしまった。」 「私はそんな風に言われるような者ではありません。」 「今日はこのまま夕食をここでとって、泊まっていく。皆、そのつもりでいるように。」 二人でゆっくり話をし、夕食が終わるとアナスタシアはそのまま抱き上げられ、ベッドへと連れていかれた。 優しいキスが額に頰に唇に落とされ、アナスタシアは陛下を愛し愛されて、ここで生きて行こうと思いつつ、あの時のエドの顔が頭の片隅から離れない自分が嫌だった。
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