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ユーリが部屋を出て行ってから、1時間経ったくらいで、甲冑の音が廊下の方からいくつか聞こえてきた。
アナスタシアは、弱くなりそうな心を落ち着かせるために扉を睨むように見つめる。
幽閉されていたとは言え、私はこの国の王家に生まれたのだから、民を守るために出来るだけのことはしたい。
残ってくれた3人のためにも…
ユーリの案内で部屋に入ってきたのは、壮年の体格のいい将軍と思しきシルバーグレイの短髪の男と20代半ばくらいの若い男だった。
まずは、ユーリが無事に戻ってきたことにホッとする。
「クレア王が話し合いを希望していると聞いたが、どこにいるのだ。」
勇猛そうな壮年の男は、部屋をぐるりと見回し、アナスタシアに目を止めた。
「ご足労いたみいります。私が現在、クレア王国、国王のアナスタシア・クレアキンです。」
「私は、カリアス帝国第一将軍オーウェンと申す。ひとつ聞きたいが、現王はグレゴリーではないのか。」
オーウェンは、苛立ちげにこちらを見てくる。
「弟は退位し、私に譲ったのです。」
「王位を姉に丸投げして逃げ出すとは、情けないな。」
「私は、抵抗する気も出来るだけの兵力も持ち合わせておりません。降伏いたします。ですから、ここに残っている者たちや無辜の民を傷つけないと約束していただけないでしょうか。」
「それは、自分も含めてと言うことか?」
「いえ、私は王家の者として責任は果たす所存にございます。カリアス帝国の判断にこの身を委ねます。」
「姫様!」
アナスタシアの言葉に横にいたマリナとニーナが渡さないとばかりに縋り付いた。
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