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空回り
再び目を覚ますとお昼近くになっていた。 ヤバッ、お昼ないやと思って身を起こすとキッチンで賄さんが何か探しているような光景が目に入った。
「賄さん何してるの?」
「ひあッ!!」
不意に俺が話し掛けたからかビックリした声をあげた。 なんか可愛い……
「……」
「ごめん、何してるのかなって思って」
そんなビックリさせた俺を俺を睨み付けながら賄さんは言った。
「別に…… 怪しいことしてない」
「そうだとは思うけど」
「迷惑してると思うからお昼ご飯くらいはって思って。 でもどこに何があるのかわからなくて」
「迷惑だなんて…… ところで何を探してるの?」
「バジルスパイスとそれから生クリーム」
「うんうんなるほど」
カップラーメンで済まそうとしてたところ賄さんが俺に料理してくれるなんてなんてラッキーと思って俺も出来るだけ協力しようと思ったのだが俺は台所に入ってもろくなことした記憶がない、ましてや料理とかって。 親が全部やってくれてたから。
「あれ、どこだろ?」
俺がキョロキョロとキッチンの扉を開けたり閉めたりしているところを怪訝な眼差しで賄さんは見る。
「ないの?」
「いやあったはず」
だって母さんが作った時に見たことあるし。 そして上の戸棚を開けてみるとようやく見つけた。
「あった」
調味料がズラッと置かれてあるので俺は手を伸ばそうとしたが届かない…… なんでこんな高いところに置いてるんだよと思っていると横から腕が伸びてバジルスパイスを取った、賄さんが。
「ありがとう」
「あ、いや、別に」
賄さんは俺よりも10センチ以上身長が高い、なんか複雑な気分だ。
「何作ろうとしてるの?」
「ビーフシチュー」
「なんて?」
「ビーフシチュー」
聞き返されたことに少しムスッとして言われた。
昼からビーフシチューってありなの? そういうの夜ご飯に食べるもんだと思ってた。 というよりガッツリ食べたいのかな??
俺がそんな風に思っていると何かを察したのか賄さんはムスッとした顔になる。
「嫌い」
「え!?」
「ビーフシチュー嫌い?」
「あ、ああ、ビーフシチューね。 好きだよ」
「そう」
そう言うとクルッと俺に背を向けた。
「お肉なかったの」
「へ?」
「鶏肉でもいい?」
「あ、うん」
「そう」
それ以外はあったのかな? ビーフって牛だからそれを鳥にしたらチキンシチューじゃ? と思って俺も何か手伝おうとしたら「座ってていいよ」と言われたので今回は大人しく待っていることにしてテレビでもつけてリビングで待っていた。
親が居るとソッコーで部屋に籠るんだけどこういう場合はリビングで伸び伸び出来ていいなぁ。 てか賄さんはどう思ってるんだろう? 俺が居ると居辛いとか思ってないかな?
「出来たよ」
「意外と早いね」
「お腹空いてると思ったから。 ジャガイモとニンジンちゃんと火が通ったかな」
不安そうにビーフシチューを盛った皿を見つめていた。
お腹空いてると思ったのは俺なんですけど。 と思ったけど俺がお腹空いてると賄さんは思ったから急いでくれたんだよな?
「でも俺じゃ全然作れないし凄いよ賄さん」
「うぅ…… そ、そうかな?」
モジモジして俺から目をそらした。 もしかして褒められて照れてる?
「そうだよ、キッチンに何がどう置いてるのかも俺わかんなかったし」
「そんな気がした」
今度はやっぱりという顔で見られた。
うわ、俺の株を下げること言っちゃったよ。 普段なんもしてないんだなと思われたかな?
「食べてみていいかな?」
「どうぞ」
俺はこの話はやめたくてビーフシチューを口に入れた。
美味しい!
けど賄さんが言ったように急いだからなのかジャガイモとニンジンが少し硬い。 そして賄さんは俺の反応を待っていると思う、ここは……
「ちょうど良いよ、全然美味しい!」
「良かった」
ホッとしたように賄さんもビーフシチューを食べ始めた。 だが少しすると賄さんの顔が曇る。
「硬い…… ちょうど良くない」
嘘ついたな? というジト〜ッとした目で俺を睨んだ。
「俺にはこれくらいがちょうど良かったんだけど」
急いで作ってくれたのに硬いなんて文句言えるはずないしなぁ。
「ほんと?」
疑うように俺を尚睨む。 これは正直に本当はちょっと硬いかなって思ったと言った方がいいのだろうか?
「…… ちょっと硬めだったかな」
「やっぱり。 あたしが作ったからだ」
「え? いやいやそんなことないって」
「嘘までついて美味しいって言わなくていいよ、あたし邪魔者だもん」
こんな美少女と一緒に居て邪魔なんて思うはずないだろ? なんて言えればいいんだけど俺も言う勇気がない。
「思ってないよ邪魔だなんて」
「それも嘘、だって……」
それ以降下を向いたまま賄さんは何も言わなくなった。 そんでもって沈黙のままビーフシチューの皿とスプーンがカチャカチャと擦れる音だけリビングに響いた。
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