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「わっ」
驚いて思わず体をそらしたところで、ここが階段だということを思い出した。
思い出したところで傾いた体をどうすることもできない。ぎゅっと目を閉じるとすぐに来るであろう痛みを覚悟する。
「危ない!」
焦ったソウマの声と同時にひんやりとした手が私の手首を力強く引く。ぐっと引き寄せられた体は下に落ちることなく難を逃れた。
「バカ! 死にたいの?! 階段だよ!」
ソウマの叱るような声がこの場に響く。
助かったと理解した瞬間、バクンバクンとうるさいくらいに心臓が鳴りだした。
生きてる理由なんかない、死んでもいいとか思ってたくせに。死ぬかもと思ったら怖くて手の震えが止まらない。
「唄?」
私の様子がおかしいと感じたソウマは掴んでいた手を自分の方に少し引いて私を覗き込む。
「唄、大きな声だしてごめんね。本当に焦って……。怪我はない?」
心臓の音はまだ収まらなくて、手の震えも止まらない。そんな中ソウマの優しい声が聞こえる。
私はその声に辛うじて小さく頷き答えるが、顔を上げることはできなかった。
ふわりと頭になにか乗る感覚がする。そして、それはそのままゆるゆると左右に動いた。
「怪我がなくて良かった」
優しい声が私の中に響く。頭に乗ったそれはソウマの手だった。
自分が分からない。生きる理由なんかない、死んだら楽かなって思っていながら死ぬことを怖がってる。
こんな自分自身をとても情けなく思えた。
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