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「ねぇ、死ぬの?」
突然、そんな声が後ろから聞こえてきた。
それは間違いなく私に向けての言葉で。
学校の屋上のフェンスを超えて立っている私は傍から見れば、自殺志願者にしか見えないだろう。
今日のニュースで梅雨入りが発表されたというのに目の前には雲ひとつない青空がいっぱいに広がっていて、そんな大空を鳥が飛ぶ。
それを見ていると私もここから自由に飛び立てるような気がして、優雅に両腕を広げた。
「ねぇ、死んじゃうの?」
再びその声は風に乗って静かに届き、私はゆっくりと振り返る。
フェンス越しには一人の男が立っていた。
同学年だろうか。この学校の制服に身を包み、色素の薄い髪を風で揺らしている。
その男は私と目が合うとまるで幽霊でも見たかのように大きく目を見開いた。
「……よかった。聞こえてた」
そして男はとても嬉しそうに口を開いた。
確かに私と男の間には距離があって、強い風でも吹けば声を拾うのは難しいだろう。
声が聞こえていれば、自殺志願者を説得出来ると思っているのか。
ーー馬鹿らしい。
いっそのこと、この男の前で飛び降りてしまおうか。そんなことが頭を横切る。
が、もちろん私にはそんな勇気なんかない。
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