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「やっぱりどこか痛む? 怪我した?」
ずっと俯く私を不審に思ったのだろう。ソウマのひんやりとした手が私の頬に触れ、私は驚き思わず顔を上げた。
「大丈夫?」
不安げな顔でこちらを見つめるソウマに私は大丈夫、と小さく答える。
ソウマはその言葉を聞いても観察するように私を見ていたが、しばらくして安心したように壁にもたれかかった。
「焦ったよ。起きたら目の前で階段から落ちそうになってるし」
「ごめん」
素直に謝ればソウマは優しく目を細めて、冷たく心地よい手を私からゆっくりと離す。
「怪我がなくて良かった」
「……助けてくれてありがとう」
その言葉にソウマは一瞬目を見開らくと、八重歯を見せて子どものように笑った。
そしていつの間にか手の震えは止まっていた。
「それで唄はどうしてここに?」
ソウマはふと思い出したように口を開く。私はその質問に言葉を詰まらせた。
なかなか口を開かない私を訝しげに見ていたソウマはまさかという感じで私に目を向ける。
「唄、もしかしてまたフェンスを乗り越えようとしてた?」
じろりと睨まれた私は慌てて首を振った。
ここに来たらソウマに会えるような気がしたから、とかそんなこと恥ずかしくて言えない。
「ソウマは? いつもここにいるの?」
私の唐突な質問に、探るようにこちらを見ていたソウマはパチパチと目を瞬かせた。
「いつもは居ないよ。今日はここに来くれば唄に会えるような気がして」
ソウマは無邪気に八重歯を見せる。その答えに次は私が目を瞬かせた。
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