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窓側の後ろから2番目の席。私は頬杖をつきながら黒板に書かれた文字をノートに書き写していた。
昨日梅雨入りが発表されて、今日は朝から雨だった。
絶え間なく聞こえる雨音と先生の朗読する声が私を夢の中へと引きずり込もうとする。クラスメイトの半分は既にその戦いに敗れており、黒板がいつもより見やすかった。
5時間目の国語の授業は、いい具合に膨れた腹と先生の声で眠たくなる。いっその事、私もこのまま寝てしまおうかとそんな考えが頭を過ぎったがすぐにかぶりを振った。
これでも一応優等生として通しているのだ。
私は必死に睡魔と抗いながら少しでも目が覚めればと思い、昨日の出来事を思い出した。
※※※※※
あの後屋上で出会った男は、そのまま私の手を引いて校舎内に続く階段へと向かった。
「で、どうしてあんなところにいたの?」
男は私と目線を合わせるように、私がいる二、三個下に降りている。
「……別に意味はない」
「え、飛び降りようとしてたわけじゃないの?」
焦ったように私を覗き込んだ男に軽くうなずいた。
近くで見る男の顔は整っていて、少し垂れた目尻が甘い雰囲気を作っている。
「なぁんだ。……そうだったんだ」
僕の早とちりだったんだね、と気が抜けたように男はその場に座り込んだ。そして目だけをこちらに向ける。それはいわるゆ上目遣いというやつで男の癖に妙に色気があって一瞬どきっとした。
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