4人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は桜の木を見上げると、丁度コゲラが飛び立ったとこだった。
「あ、行っちゃった」
女の人はコゲラが飛び立った方を見えなくなってもずっと見ていた。その横顔は少し寂しそうだった。
「家族に会いに行ったんですかね」
そんな顔は見たくなくて、その人に笑ってほしくて、俺は柄にもないことを言う。
「そうですね」
だけどその人は笑わなかった。そして何故か優しい目で俺を見つめた。
「素敵ですね」
それを聞いた途端、俺は無意識に女の人の腕を掴んでいた。今にも消えてしまいそうな気がして。目の前からいなくなる気がして。
「……貴女の名前は」
何か言わないとと思い、咄嗟に出た言葉がそれだった。
女の人は少し目を見開いて、笑う。
「さくら」
次の瞬間、強い風が吹いた。どこから飛んできたのか桜の花びらが目の前を横切り、それを思わず目で追う。覚えのある甘い匂いがした。
俺は嫌な予感がして急いで花びらから視線を戻す。
そこには誰もいなかった。
ふわりと暖かい風が俺の頬をなで、ふと見上げると桜の花が一輪だけ咲いていた。
もうすぐ桜の季節。
俺は無性に泣きたくなった。
最初のコメントを投稿しよう!