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すると女の人は驚いたようにこちらを振り返った。肩口で切りそろえられた黒髪がさらりと揺れる。長いまつ毛で縁取られた目は丸く見開かれていた。
「ええ。ええ、そうです。啄木鳥(キツツキ)です」
花が咲いたように笑うその人は桜の幹にそっと手を触れる。キツツキは逃げなかった。
「この啄木鳥は小啄木鳥(コゲラ)と言う種類です。日本で一番小さな啄木鳥です。オスは後頭部に赤い斑点があるんです」
あの小啄木鳥はオスですねと、その人は愛おしそうにキツツキを見上げる。俺にはその赤い斑点は見えなかった。
「知ってますか? 小啄木鳥が巣を作る木は枯れた木や、生きている木でも中心部が腐っている木が多いんです」
俺は桜の木を見上げるとコゲラの近くにぽっかりと空いた穴を見つける。
「じゃこの木は」
そう呟いた俺に女の人は何も言わず小さく微笑んだ。
「小啄木鳥はつがいや家族と一緒にいることが多いです」
桜の木にとまっていたコゲラがギーギーと鳴く。すると遠くの方でそれに応えるようにギーギーと聞こえた。
それを聞いていた女の人は優しく桜の木の幹を撫でる。
「そしてつがいの絆は片方が死ぬまで続く」
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