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15時27分の校舎は、部活動がある生徒は部活へ、バイトや遊びがある生徒は帰宅して比較的静かになる。
そんな放課後、おれは部活でもバイトでもなく、廊下を軽く走りながら別の場所へ向かう。
クラスメイトに知られたら「似合わねー」と笑われるのは目に見えてるから遊びの誘いはテキトーに断って、本当のところは誰にも言わない。
おれだけの時間。
おれだけの、ゆり先輩。
図書室に入ると、そのひとは一番奥の窓際の特等席に座っている。
華奢な両手でお行儀よく文庫本を持つ。傷みを知らない艶のある黒髪と白い肌。上のほうまで留められたブラウスのボタン。きっちり結ばれた赤いリボン。糸で吊られてるみたいに伸びた背筋。…顔小さ。
毎日見てるのに他の誰よりも緩くまぶしく見えて、そのきれいな存在におどろいてしまう。
まつげの影が頬に落ちる。
窓際の席って、これだからずるい。
ゆり先輩がきれいなことはあまり知られていないと思う。 カーストは見る限り底のほう。とにかく目立たない。自分を見せようとしない。ただひっそりと学校に通ってるだけ。
そんな控えめな、2学年上の青木ゆり先輩。
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