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もったいないよ。ゆり先輩を知ったら、好きになるひとはたくさんいると思う。
そうなったら困るかもしれないけど…おれは、ゆり先輩が笑ったところを、見てみたい。
「ゆり先輩はどうして……」
人と関わらないんですか。
思いきってそう聞こうとしたら、窓を叩く音がした。
一番傍のそれを見ると、大嫌いなアイツが突っ立ってる。
おれが行こうとしたのに、ゆり先輩はすぐに立ち上がって、跳ねるように移動して窓を開けた。
風が緩やかになびいて、やわらかそうな黒髪を攫ってく。
「水島先生、どうしたんですか?」
…おれと話すときと、ちょっとだけ違う声の色。何色だろ。…今日の空みたいな淡い色かな。
「楽しそうだったから仲間に入れてもらおうと思って。何読んでたの?」
ふざけんなよ、邪魔すんなばーか。
「“檸檬色の日々”って本です」
先輩も、楽しそうに話続けんなばーか。
「夏の話のやつか。今日はやけに爽やかなやつ読んでんな」
「たしかに、先生は好きじゃなさそうですよね」
「そんなことねーよ」
「…先生、たばこのにおい、します」
「さっき吸った」
「悪いですね」
「悪いのはそっちのガキだろ。担任をあんなに睨むか?フツウ」
おおコワ、と、まったくこわがってない声で言いながら肩をすくめてこっちを見る。揶揄うってああいうのだろ。
あれは担任の国語教師。図書委員の担当もしているからか、図書委員としてここを貸し切りのように使うゆり先輩とも親しいらしい。
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