言い訳できなかった放課後

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教師なのに煙草は吸うしひげも生えてる時のが多いし髪も長い。切るのめんどくさい、が言い訳。余裕げな態度が、いつだってムカつく。 「べつに睨んでねーよ」 本の内容を知ってるところが、ムカつく。 「そ?…あ、青木、大学の勉強進んでる?なんかおまえの担任褒めてたよ」 ムカつくのに、思わず耳がダンボになる。 先輩の進路。進学するんだろうとは思っていた。気になっていたけどタイミングがなくて今まで聞く機会がなかった。それに、なんか、…卒業されるの嫌だし。 つい最近やっと高校生になったのに、先輩はもうすぐここからいなくなるって思うと、なんか聞きたくなくて。 「まだまだです。…でも、がんばります」 …あ。初めて見る顔、だ。 控えめだけど、がんばってる自分を、認めたいと思ってるような顔。 アイツの前だと、先輩は、おれにはしない顔をする。 「青木の夢が叶うの、楽しみにしてる」 一瞬。 おそらく頬にかかった髪を払っただけの行為。 それでもおれにはできないことを簡単にやって名残りもなく去っていく大人。 こういう時はいつもその広い背中をしばらく惜しむように見つめる横顔は、悔しいけど、どんな表情よりもきれいで。 …進路も、夢も、読んでる本の内容も、おれは知らない。 26歳のアイツと、おれの差。 それに毎日苛々してる。 おれが何かに苛々していること、ゆり先輩もきっと気づいてる。だけど取り合っちゃくれない。 煙草とか、スーツとか、そんなのに何の魅力があんの?
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