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その後、元々引き取る予定だった親戚と父が少々揉めることにはなったが、実子ということもあり娘の亜夢の意向が優先され解決に至った。
元々暮らしていたこともあるし、一応は誤解も解けたことで家族仲も良好。 母がいなくなったことによる悲しみと大変さはあるが、日々を順調に過ごしていた。
「えぇーっと・・・」
そんなある日、亜夢は何となく思い付いたように調べものをしていた。 頭の片隅に残る記憶、エナジードリンクと呼ばれていた飲み物。
あの日の出来事は全て夢だったと考えるのが自然だが、何故か単純にそう思うことができなかった。
―――うーん・・・?
しかし子供の活力を元にしたドリンクなんて売られているはずもなく、憶えたパッケージも見つからない。
―――やっぱりあの国は夢だったのかなぁ。
―――不思議なのは、いなくなったと思ったクマキチが何故か私の腕の中にいたことだけど。
―――・・・でも自分の目で確かめるまで、納得ができない。
特に当てはないが店でも売られていないか確認してみようと思った。 玄関へ向かっていると克希に呼び止められる。
「姉さん、どこへ行くの?」
「ちょっとスーパーにでも行こうと思って。 何かほしいものでもある?」
「別に。 もうすぐ昼ご飯だから、早く帰ってこいよ」
「弟のくせに兄貴面しちゃって。 行ってくる!」
「うん、行ってらっしゃい」
笑顔で家を出ると、克希も笑顔で見送ってくれた。
―――私が戻らないとでも思ったのかな。
心配してくれているのが嬉しかった。 何もいらないとは言っていたけど、アイスでも買って帰ってやるか。
それともエナジードリンクを、そのようなことを考えながら近くのスーパーへ行き飲み物売り場へと向かった。
―――うーん、どれどれ・・・?
やはり不思議の国で見たドリンクは売られていなかった。
―――やっぱりないかぁ。
―――変な夢でも見ていたんだな、きっと。
そう結論付けアイスを買って帰ろうと思ったその時だった。 ふと横に並ぶ少年が気になって、横顔を確認してみたのだ。
見覚えがあるようなないような、そんな風に思ったのは表情がきちんとあったためだろう。
「「あッ・・・」」
二人は同時に目が合い驚いて固まる。 亜夢と同様にエナジードリンクを眺めている少年は不思議の国であった彼だった。
―――・・・え?
―――博未、だよね・・・?
―――どうして、博未がここに・・・。
互いに意識を傾けるということは、相手に何か心当たりがあるということだ。 それを肯定するかのように少年が尋ねかけてきた。
「・・・もしかして、亜夢?」
「ッ、やっぱりあの博未!?」
互いのことを認識すると博未は不思議そうに首を傾げる。
「え、どういうこと? あれは夢じゃなかったの?」
「それは私が知りたいよ! あのテーマパークとか、変なドリンクとかがある不思議の国でしょ!?」
「そ、そう! 本当にドリンクが売られていないか、確かめに来たんだけど・・・」
「私も!」
そう言って二人してドリンクコーナーをもう一度見る。 当然、先程までなかったものが今あるはずもない。
「でも結局、売られていなかったけどね」
「売られていなくてよかったんだよ」
亜夢は博未のその言葉に驚いていた。 あの時の博未なら『売られていても売られていなくてもどちらでもいい』と言うはず。
もしかしたら自分と同じように心境の変化があったのかもしれないと考え、博未の近況について聞いてみた。
「・・・で、どう? 親とは」
「・・・うん。 親に自分の気持ちを伝えてみた」
「本当!?」
どうやら夢で話したことは現実でもそのままのようだ。 いや、それはつまりあれは単なる夢ではなかったということになるが、亜夢は正直なところどうでもいいと思っていた。
それよりも自分の言葉が博未に決心させたということが嬉しかった。
「久々に自分の想いをぶつけることができてスッキリした」
「やったじゃん!」
「うん」
博未は優しく微笑んでいる。 会ったばかりなのに、随分と前から知り合いだったような感覚。 亜夢もつられるように笑っていた。
「あ、博未、今笑ったね。 大分表情が柔らかくなってるよ」
「そういう亜夢こそ」
「私は感情がなくても、怒った顔はできていたから!」
「でも結局は、あの不思議の国が夢なのか現実なのかよく分からなかったね」
「うん。 夢の中で、博未は私と会っていたことになるもんね」
博未は少し間を置いて言った。
「でも、どちらでもいい。 一歩を踏み出すことができたから」
「私も。 一歩を踏み出すことができてよかった」
二人にとってとても不思議な体験だった。
「亜夢。 また会える?」
「博未はここら辺に住んでいるの?」
「うん」
「ならまたすぐに会うことができるよ」
二人が住んでいるのが近かったことも奇跡だった。 新しい何かが始まる時のきっかけなんて何でもいい。 別れがあれば出会いがある。
亜夢にとって母に代わりは利かないが、博未に出会えたこともかけがえのないことだったのだ。
-END-
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