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目覚めれば雲の上、そのような現実があるはずもないが綿あめのような白雲が実際に広がっている。
―――夢?
―――ここはどこ・・・?
上体を起こし見上げると、雲の先に猫を擬人化したような何かが立っていた。 獣人というのが正しいのか亜夢は分からなかったが、ただ見た通り猫人間が派手な服を着飾っているという感じだ。
―――・・・一体何者?
猫人間は長い髭を揺らしながら大袈裟なポーズで頭を下げる。
「ようこそ、夢の国へ」
「夢の国?」
感覚がおかしくなっているのか、動物が変な姿をしていても喋ったとしても不思議に思わなかった。
「ここは感情を失った子供たちだけが訪れることのできる秘密の場所。 幸せな世界ですよ」
―――そんな意味不明な話、誰が信じると思う?
そう思い顔をつねってみた。
「痛ッ・・・」
夢の中で頬をつねった経験はないが、確かな痛みを感じる。
―――え、ということはここは本物の世界なの?
―――夢じゃないんだよね?
辺りをキョロキョロと見渡していると猫人間が紫色のシルクハットを外し雲の先へと向ける。 気付けば視界が晴れ鮮やかに彩る不思議な景色が広がった。
「ざっくり説明をいたしますと、右手側がテーマパークとなっており左手側が作業場となっております」
「作業場?」
「ここは何でもし放題、ダラダラもし放題。 願ったものは目の前に現れるし、好きなものも何でも食べられる。 まるで、いや、本当に夢の国ですよ」
「・・・」
怪しむような目で猫人間を見ると細い目を見開いて言った。
「その代わり、お仕事というものがありますけどね」
「・・・お仕事、って?」
「作業の内容は簡単。 後程説明いたします」
話していると一人の少年が現れた。 小学校高学年くらいの男の子で、奇妙に感じる程彼は無表情だった。
「彼が貴女の世話役となります。 何かあったら彼にお尋ねなさい。 ではよろしく」
猫人間は亜夢よりも遠くを見据えていた。 後ろを見るとかなりの列ができている。
―――いつの間に!?
―――というか、みんな私と同じ理由でここへ来たのかな。
―――感情を失った子供だけ、って・・・。
確かに並んでいる子たちは希望を失ったように表情がなかった。
「僕の名前は博未(ヒロミ)」
突然少年が喋り出した。
「あ、うん・・・。 私は亜夢」
「亜夢。 行こう」
「どこへ行くの?」
「テーマパークだよ」
少年は先程猫に言われた右方向にあるテーマパークへと歩いていった。 素直に従いたくはないが、行く当てもないためとりあえず付いていくことにした。
「好きなことをしていいよ。 僕はここで待ってる」
そう言って博未はベンチに座った。
「いや、好きなことって言っても・・・」
確かに遊園地のようにたくさんのアトラクションがあるし、乗っている子供もたくさんいる。 だが表情は一様に無表情でつまらなさそうだ。
―――全然楽しそうじゃない。
―――私も今、遊びたい気分じゃないし。
博未をチラリと見るとジッと見つめ返され何となく気まずかった。 そもそも何故彼は遊ばないのだろうとも思った。 ベンチではただ座るだけで虚ろな視線を亜夢に向けるだけ。
居心地が悪く、その視線から逃げるようにアトラクションへと向かうことにした。
―――まぁ、折角だし試しに乗ってみるか・・・。
小さめのジェットコースターに乗ってみた。 係員の蛇人間だけが陽気で、列に並ぶ子供たちは虚ろな表情だ。 安全バーがしっかり締まり風を切るのも通常のジェットコースターと変わらない。
だが現実で言えば有り得ないことが一つだけあった。 誰も、何も言わないのだ。 悲鳴一つ上がらずただ黙ったまま猛スピードで走るコースターで髪が風に揺られている。
アトラクションとして出来が悪いとは思えないが、あまりにも奇妙なジェットコースターに気分が上がるはずがなかった。
―――どうしてこんなアトラクションを作ったんだろう?
―――感情をなくしているのなら、楽しめるはずがないのに。
―――みんなは何のためにここで遊んでいるの?
考えてみてもよく分からなかった。
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