笑顔のその先

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入院て・・・そんなお金はない。 実家に頼る・・・? ダメだ。 今までだって散々心配かけたのに、ずっと大丈夫と言っていた息子が実はダメだったなんて知ったら、きっと悲しませてしまう。 「・・・入院は出来ません」 だけどいつフェロモンが出るか分からない状態では出勤どころか、外に出るのも危険だ。 「・・・誰か信頼出来る、番のいないアルファはいるかな?」 八方塞がりで項垂れる僕に先生は訊いてきた。 アルファの知り合い? 「アルファはね、オメガのフェロモンに敏感なんだ。特に番のいないフリーのアルファだと不特定多数のオメガの香りを感じ取れる。血液検査ほどの精度はないけど、こうやってうなじに近づくとフェロモンの漏れをチェックすることが出来るんだ」 そう言って先生は僕のうなじに鼻を寄せた。 「今は全然だね」 信じられないくらい近くに先生の吐息がかかり、僕は思わずずり下がった。 「ごめん、怖がらすつもりはなかったんだ。とにかく、アルファはフェロモンを感知できるから、治療の間一緒に暮らしてもらって毎日チェックしてもらったらいいと思うんだよね。そうしたら病院で検査する必要は無いから。ただ、襲われちゃったら元も子もないから、信頼できる人じゃないと」 確かに先生の言う通り、アルファだったらフェロモンに敏感だ。だけど、アルファに知り合いなんて居ない。ましてや『信頼出来る』なんて皆無だ。 「・・・早瀬くんに心当たりがないなら、これはオレからの提案なんだけど、君をここに運んだ人はどうだろう?あんな状態の早瀬くんにも流されることはなく冷静にここに運んでくることが出来たんだから、かなりの自制心があるし、彼なら信頼も出来るんじゃないかな?」 確かに、あの時僕は完全に発情していた。なのにそれに誘発されることなく冷静に判断し、行動してくれたけど、そんなことが出来たということはもう誰かと番ってるかもしれない。 「彼はフリーだよ」 僕の疑問が顔に出たのか先生が答えてくれたけど、なんで知ってるの? 「実は既に了承を得てるんだよ。早瀬くん、緊急連絡先の番号、嘘書いただろう?全然連絡つかなくて困っていたら、その彼が連絡先にしていいって言ってくれてさ。病院では彼が君の緊急連絡先になってるよ」 緊急連絡先は颯介さんの携帯番号になっている。まだ解約できないでいるスマホは自宅の引き出しの中だ。 だからといって、顔も名前も知らない人が僕の連絡先になってるなんて・・・。 「本当はいけないんだけど、番う予定の婚約者的な関係ということで特別に許可されたんだよ。でないと病院は君を受け入れられなかったからね。救急搬送されてきたならいざ知らず、時間外受付だったから病院側は断れちゃうんだよね」 確かにそうなんだけど。 僕は思わず頭を抱えてしまった。 たまたま通りすがりの知らない社員が発情した場に遭遇してしまったために放っておけず、病院に運ぶも離れなかったために着ていたワイシャツを脱がされ、挙句に緊急連絡先が繋がらないからといって自分がなるなんて・・・。 その人はどれだけいい人なんだろう? そして僕は、どれだけその人に迷惑をかけてるんだ? おまけにさっきの突拍子もない提案の了承を得たって?
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