笑顔のその先

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運命の番? て、あのドラマとかでよく出てくるやつ? 僕は想定外の言葉に一瞬何を言っていいのか分からなくて言葉に詰まってしまった。 「・・・まあ、そういう反応が普通だね。ほとんど都市伝説だし、気にしなくていいよ」 えっと・・・。 違って残念、ということは、運命の番ではなくて残念?? 運命の番? 誰が誰と? ??? きっと僕の顔にはいっぱい?マークが書いてあったんだと思う。冴木さんは僕の顔を見て苦笑いした。 「『運命の番』と言うとちょっと浮世離れした感じで恋愛ファンタジーぽくなるけど、要はお互いに引き合ってしまうフェロモンの持ち主同士のことを言うんだ。 人は元々無意識のうちに自分にとって優性な遺伝子を残すためにフェロモンを嗅ぎ分けているんだけど、ごく稀にそれがぴったりはまる人と出会ってしまうことがある。それがアルファとオメガだった場合、感覚的な曖昧なものではなく、目に見えて分かりやすい反応が出るから『運命』といって憧れの対象にするんだ」 「目に見えて分かりやすい反応?」 ドラマだと、出会った瞬間にお互い恋に落ちるも二人の間には大きな障害があって、お互い忘れようとすればするほどニアミスが続き、結局最後は自分たちは結ばれる運命なんだ、と言って他者を振り切って番うという、視聴者がハラハラドキドキする展開の物が多いけど、それが現実にも起きてるってこと? 「発情するんだよ。発情予定でなくても、抑制剤を飲んでいても、その相手のフェロモンを感じ取ったオメガは発情し、相手のアルファに自分の存在を知らせるんだ。そして出会った2人は動物的本能に支配されて交わり、番うんだ。そして子を成す。それは2人が番うまで永遠と繰り返し起こる」 その直接的な言い方に、ドラマのようなロマンチックさはなかったけど、説明はよく分かった。 つまり、運命の番に会ってしまったら番わない限り相手に発情し続けるということだ。それも抑制剤は効かないから、必ず発情してしまう。 ああ、僕は緊急抑制剤が効かなかったから冴木さんの運命の番だと思われたのか。でも今日来てくれた時に全く発情しなかったから『違った』んだ。 でも、残念ではないよね?むしろ違くて良かった。だって、番うまで僕は冴木さんのフェロモンの届く所に居るだけで発情してしまうことになるんだから。 「運命の番のお話はよく分かりました。僕達がそう言う関係でなくて良かったです」 「そうだね」 冴木さんは僅かに微笑んでそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。 冴木さんもきっと違かったことに安堵したんだ。 その微笑みにそう思うと、僕の心が僅かにちくりと痛んだ。 だけど、僕はそれも無視する。時間を見たら夕食の用意をする時間だ。僕はコーヒーを飲み干すと椅子から立ち上がった。 「冴木さん、何か食べられないものありますか?」 コーヒーカップを片付けながらそう言うと、冴木さんのカップも受け取った。 「特に好き嫌いはないよ。アレルギーもね。・・・今日から作ってくれるの?無理しなくてもいいよ」 「大丈夫です。病気だった訳では無いので。お買い物してないんであり合わせになってしまいますが、良かったら作らせてください」 そう言って口元に笑みを乗せた。 ここは冴木さんの香りでいっぱいだから、何かをして気を紛らわせていたい。 何も考えられないように、身体を動かしていたい。 僕は早速調理にかかった。
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